TOSHI

ボーダー 二つの世界のTOSHIのレビュー・感想・評価

ボーダー 二つの世界(2018年製作の映画)
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初めてのケースだが、フォロワーの方から、本作についてレヴューの要望があった。気になってはいたが、特にリクエストされる程の作品ならと、優先順位を繰り上げて観賞した。

冒頭から、船舶が停泊する港を眺める、主人公の風貌がショッキングである。ボサボサの髪。むくんで険しい顔に、イッてしまっているかのような目。そのまま、エクソシストの悪魔に取り憑かれた役ができそうな外見だ。原始人の風貌に、近いようにも見える。こんな人物を主人公にしている事が、本作は“普通の映画”ではない事を宣言しているかのようだ。主人公は何故か、小さな虫に感心を示す。

港の税関職員のティナ(エヴァ・メランデル)は、到着ゲートに立ち、乗客達をチェックするが、動物のように鼻を利かせているのが異様だ。ある男性の、スマホのSDカードを取り出すと男は慌てて、飲み込んで隠滅を図ろうとする。後に分かった、そのカードの中身は…。
ティナは、羞恥心・罪悪感等の感情を嗅ぎ分ける特殊な能力を持っていたのだ。呼び止められた、別の男・ヴォーレ(エーロ・ミロノフ)は、不審な箱を持っていたが、中身は昆虫の孵卵器だった。
ずっと異様さが支配しているものの、ティナはまともな仕事に就いているのであり、ボーイフレンドもいる。自分の家で一緒に暮らしている、ローランドだ。しかし肉体関係は、ティナが拒んでいるようだ。また、認知症で老人ホームで暮らす父は、娘が利用されているのではないかと心配している。
再び入国審査を受ける事になったヴォーレに、ある意外な事実が判明するが、ティナは外見的にも似た部分がある彼に惹かれ、家のゲストハウスを提供する事になる。

ティナとヴォーレの共通性の正体が、驚きだ。ティナは自らの容姿の醜さは、染色体異常のせいだと考えていたが、異常ではなく…。想像もできない展開の、着地点は…。“二つの世界”の、“ボーダー”が融解するラストに打ちのめされる。

久々に、頭を殴られたような衝撃を受ける作品だ。人間社会で異質な存在であるティナを通じて、逆に人間の異質性を突き付けてくる。
私は人間や人間社会に疑念を持たず、信じ切っている人が嫌いだ。例えば、会社で目下の人を怒鳴り散らしているような人は、人間社会やそこでの自分の地位を信じ切っているだろう。人間は愚かな生き物、或いは本作にあるように、地球を都合良く利用する“寄生虫”というような俯瞰があるならば、そんな言動は生まれない筈だ。私は人間社会に疑問を持たず、馴染んでいる人とは、関係を深めたいと思わない。私が共鳴するのは、人間社会に馴染めない異質な部分を抱えた人と、人間の異質性に意識的な人だ。本作を観に来ている人となら、友人になれるかも知れない。

本作のモチーフは、絶滅の危機に瀕する伝承の生き物だそうだが、神秘的な北欧の自然が、こんな異様なファンタジーに説得力を持たせている。長編二作目で、独創的な作品世界を構築したアリ・アッバシ監督が、今後どんな次元に到達するのか注目したい。
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