Riisa24

風の電話のRiisa24のレビュー・感想・評価

風の電話(2020年製作の映画)
5.0
ティッシュ箱ひとつ潰した。家で一人で観てよかった。
これは共感でも同情でもない、救いの映画。

緻密に考えられたうえでの長尺ワンカット撮影や、静かなカメラワーク、登場人物の必要最低限のプロットという構成が良い。
あの一見無駄な「間」が、「沈黙」が、彼らキャラクターを "生きている" もの、現実に変えたと思う。
ドキュメントであり寄り添った創作であり綺麗事でもある今作。
とても疲れたけど静かに一人で観て本当に良かったと思った。

明日のことすら考えられないほど無機質になっている人間や、絶望の中で愛する人のために生きられる人間、すべて失っても気力だけで生きている人間、夢や目標があっても無力な人間、みんな現実なんだよな。
大人や、しっかり立っている人が、普通を彼女らに押し付けることは無骨で滑稽なこと。
この映画にはそれが一切なくてよかった。

広島の豪雨災害地でも、実家の跡地でも、「なんで」「いやだ」と咽び泣いて、怒りと悲しみをあらわにしていた主人公。
森尾に抱き上げられて跡地を出る時、暖かい光が差して、初めて美しい画を見た。「先が明るいことを祈る」製作陣のメッセージを感じた。
そのあとの風の電話では前向きな涙を流す主人公。

電話ボックスの約10分間に渡るモトーラちゃんのシーン。
監督はセリフを作らずに彼女のアドリブに全て任せたらしい。
本番まで一度もボックスに入らず、いざカットがかかると、そこから完全にフリーな一人芝居。
劇中、実際に使用されたのは2カット目で、1カット目は彼女自身が「嘘に思える」とNGを出したという。
そんな監督インタビューを見て、あのシーンを思い返すと、モトーラ世理奈ちゃんという大きすぎる俳優力に慄いて心底脱帽した。
ちなみに、トルコ人家族とのご飯会も「1時間ただ食事をしてください」と伝えてるだけで、出てきた言葉は全て彼らの言葉。

「自分の国があればみんな帰れるから。帰りたい人は帰れるから。ここまで苦労する必要はないと思う。自分の国がなくても良いとは思ってるけど自分の文化で生活したい。」
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