ArAー1

フラグタイムのArAー1のレビュー・感想・評価

フラグタイム(2019年製作の映画)
3.7
【一言】
時間の止まる3分間。
人との距離を考えて、自分の心と向き合う、ほんの短い刹那の中。
”永遠”は「すき」の一言。
藻掻き悩む姿は、「百合」よりも大きくて普遍的だけど個人的な「青春」の姿を見事に描き出していた。



【感想外観】
 正直、想像していた内容と違いました。
 『~加瀬さん。』が見ているこっちが恥ずかしくなるほどのラブラブな様子を描いた作品だったので、そういう感じかと思ったら、少し違う内容でした。
 でも、「女の子同士のすこし特別な関係」のことを「百合」と呼ぶことができるのならば、本作も間違いなく「百合」だし、悩みも救いも好意も恋もある、1つの青春作品として見られる物語でした。

 なんか、”本物”だなって。
 物語の中で、人と話すのが苦手な森崎美玲も、誰からも好かれる人気者の村上遥も、「他人との距離」で悩みます。というか、ずっと悩んでいます。
 そういう、他人との面倒くさいやり取りを排除したフィクションと違って、彼女たちの姿は等身大に見えたし、「百合」よりも大きな「青春」の心の揺れをとても上手く描いていると感じました。

 モノローグが多いと思いました。
 脳内の声だったり、心の声だったり、説明だったり、戸惑いを言葉にしていたり、その内容は様々ですが。百合作品にはモノローグが多い気がします。誰にも言えない心の中を、独白という形で表現するのは素晴らしいし、私も心の中で紡がれる言葉が好きです。 でも、本作のモノローグは、どこか説明的というか、一般的というか、普通、という印象でした。いい意味では「飾らない本心」で、でも「つまらない」と感じたのも事実です。

 「時間が止まる」の演出。
 個人的には、本作については「う~ん....」という感想です。少しガッカリしたというか、もったいないな、と思いました。水とか木の葉とかの動きを止めたり、BGMを止めたりしているものの、ただの「止め画」としか映らない部分も少々。多分、アニメーションの質感が悪い方向に働いてしまったのかな、と。そもそも優しげで柔らかいタッチで、背景とか人物や小物も省略して描かれています。だからこそ、「時間が止まる」という一瞬の「動き」のインパクトが弱いのではないかな、と思いました。

 主題歌は完璧でした!
 Every Little Thingの「fragile」を、主人公の森崎と村上がカバーしています。この曲が主題歌とわかった時点で期待度MAXでしたが、物語を知って、改めてこの歌を聞いて歌詞を聴くと、「この作品のために作られた!」としか思えなくなりました!!

 演出に関しては、微妙なところ。
 水彩画チックなカットとか、思い出の回想とか、普遍的なイメージの挿入が比較的多かった気がします。ただ、その挿入意味が分からず、作品が途切れ途切れになってしまった感が否めないのが非常に残念でした。心象を描くにしても、もう少し...ね。でも、オープニングはとても素敵でした!



【青い春の百合】
 この作品も、「百合」です。
 ただ、その分類に簡単に入れてしまうのは、なんだか作品が可哀想に感じる、そんな気持ちにもなる作品でした。

 「女の子同士のすこし特別な関係」
 とても言い当て妙というか。恐らく、一般的に「百合」というと「=エロ」と見られがちだと思います。そんな中で、それ以外でも「強い感情がともなえば」と定義?している部分が、とても素晴らしいと思います。

 そして、本作。
 この『フラグタイム』という作品も、「恋愛」とか「エロ」とかだけではなく、むしろ「それ以外の部分」の方がメインだっとすら感じます。

 なので、最初に書いた言葉。
 「正直、想像していた内容と違いました」 『~加瀬さん。』があまりにも大好きだったこともあり、明るく楽しくラブラブな姿を楽しみにしていたのが、本心です。「きらら系」とか、そういうのも含めたような、柔らかい雰囲気の作品を想像していました。そういうわけで、本編を見て少しガッカリしたのは事実です。

 それでも本作は「百合」です。
 でもその前に、「百合作品」である前に綺麗な「青春作品」であると思います。私は、むしろこっちを押していくべきなのではないかな、とすら思いました。
 人との付き合い方に悩む主人公・森谷美玲も、周囲との関係を気にする村上遥も、「百合」である前に高校生の時間を過ごしているキャラクターで、彼女たちの悩みは「青春」ゆえのもの。
 互いの悩みを共有して、好意を抱く相手がたまたま女の子だっただけで、「百合」とまとめるよりも「青春」として見ていたし、そう思いたいな、と感じました。なんだか、「百合」だけで括るのは作品が可哀想だと思ってしまったんです。(作者さんがどう考えているのか分かりませんが)



【2人だけの時間と心の揺れ】
 「青春」という言葉を使いました。
 いわゆる”青春群像劇”な作品は沢山ありますが、それとは違う、等身大のリアルな姿や悩みに心を揺らすような、そんな作品でした。
 その大きな理由は多分、「二人だけの時間・空間」に徹底的に絞られている上で、「周囲の他人との関係」を描いているからだと思います。なんだか、舞台演劇とか、絵本とか、そういう感じのものが頭に浮かびました。

 ストーリーは、人と話したり接したりするのが苦手な森谷美玲と、誰からも好かれる人気者だけど周囲との付き合い方に悩む村上遥の2人が主人公。3分間だけ時間を止められる森谷美玲が、村上遥と出逢って......────という感じ。正反対の2人が、3分間の停止した時間の中という、誰からも知られない空間で知り合い、興味を惹かれ、悩みを共有し、一緒に過ごしていく、というのが大雑把なところです。

 2人だけの時間・空間。
 この設定が、本当に演劇のよう。時間が止まり誰も介入できない3分間で、彼女たちが重ねる会話や時間の「密度」は、他のどんな青春作品よりも濃かったと思います。

 正反対の2人。
 言葉は悪いですが、日陰者↔人気者、陰キャ↔陽キャ、そんな対照的なイメージの彼女たちが互いに興味を抱き、話し、接していくうちに気がつくこと。歩み寄りとか理解とか、そういう表現に近いような、「心に寄り添っていく」様子がとても印象的で好きでした。

 学校というとても広く開けたオープンな舞台の中で、閉鎖的で特別で秘密の空間に入って触れ合う様子。その大小の差もあって、心の揺れとか変化とか、他人との関係が丁寧で深く濃く描かれていた感じました。

 その悩みが、とてもリアル。
 なかなかネタバレに触れるので書きづらいですが、リアルというか、等身大というか。どこか『心が叫びたがってるんだ。』とか『荒ぶる季節の乙女どもよ』とか、そういう作品に似た雰囲気を感じました。

 フィクションだからといって、そういう部分に目をつぶったストーリーではなく、むしろそっちを中心に描いているような。だから「青春作品」だと思ったんです。
 さらにいえば、「青春群像劇」と違うのは、前述の通り、2人の主人公だけにフォーカスした作品だからです。きらら作品みたいに可愛いものだけを描くのでもなく、『やがて君になる』みたいに美しい世界だけを描くのでもなく、「学校」という場所での少女の悩みを主題にしているところが、とても惹かれました。

 多分、誰もが共感するのじゃないかな。
 人と接するのが苦手。何でもかんでも意見を合わせなくちゃいけないのが辛い。人の顔色を伺うのが嫌い。他人と喋っていると逃げ出したくなる。本当の自分を晒したくない。でも、誰かに理解してもらいたい、...........。沢山の想いが詰め込まれていて、きっと、それらへの強い共感を抱くと思います。少なくとも私は、共感したり、「そうだよね、めっちゃわかる!」と思いながら、自分と重ねながら観ていました。



【時間が止まる演出】
 「時間が止まる」
 3分間だけの間、時間が止まる本作は、その部分を描くのが難しいのだろうと思います。頑張ってはいたと思いますが、特筆すべきような特別さもなく、「よくある感じ」というような感じでした。

 そもそも、コレがメインではないです。
 キャッチコピーとかでは前面に押し出されていますが、それはあくまでも「過程の現象」であって、メインは「止まった時間の中での2人」です。なので、映画から受ける印象にギャップがあったのかな、と思います。なかなか表現するのが難しいのだろうな~と。

 時間は止まるけど、主人公たちは動いてきます。
 周囲の人々や風景は静止するけれど、主人公の2人はむしろその3分間の方が行動が大胆になるし、心の動きも活発になっています。なので、「背景の時間」は停止しても、映画の「物語の時間」は激しく動いているので、あまり「止まった感」というものを受けなかったんですよね.....。

 こればっかりは、ストーリーと演出と設定と....と色々なものの兼ね合いなので難しいし、もしかしたら原作漫画では、上手くバランスが取れているのかもしれません。

 また、アニメーションとの相性もズレてしまったのかもしれません。
 本作は全体的に優しくて柔らかいタッチの絵で、少しミニマムというか、省略したような印象を受ける、そんな質感の作品でした。 だから、元々アニメから受ける印象というのが「おっとり」とか「時間の流れが緩やか」とか、そういう感じなんですよね。
 なので、そこに「時間停止」というものが挿入されても、あまりインパクトを感じなかったです。水や落ち葉、砂時計とかも用いて時間停止の状態を演出しているけれど、もともとゆったりな印象だから、「止まった感」が薄いのだろうな、と思います。



【「fragile」の素晴らしさ!】
 本作は本当に主題歌が完璧でした!
 主題歌は、Every Little Thingの「fragile」を、主人公の森谷と村上がカバーしたもの。とにかく、『フラグタイム』との相性が抜群でした!

 もう、歌詞が凄い。
 2001年と、10年近く前の歌なのに、「この作品のために作られた!」と言っても過言ではないほどの、歌詞と物語の親和性がもの凄くて、歌詞の1つ1つに作品の主人公を重ね合わせてしまいます。元々、この曲が主題歌になると知ったときから「最高だ!」と信じていましたが、期待以上に素晴らしいものでした!

 主題歌の「fragile」
 本作の題名『fragtime』
 英語の「frag」には「壊す」という意味があります。
 例えば「fragmentation」は「分裂」、「fragment」は「断片」という意味。そして「fragile」は「脆い」という意味です。なので、元々内容や雰囲気が似ているのかもしれませんね。

 最近は、名曲のカバー・アニソンが多いですね。
 『あさがおと加瀬さん。』や『からかい上手の高木さん』、それに『多田くんは恋をしない』とか『月がきれい』とか。そういうのは「恋」をテーマにした歌が多くて、時間が経ってもなお、こうしてラブストーリーを飾ることができる凄さに感動するし、懐かしい歌が流れたときの嬉しさたくさんです!

 主題歌ついでに。
 本作はオープニングも良かったです!上の「本編冒頭映像」で見られますが、抽象的で水彩画チックな演出が綺麗で、『リズと青い鳥』を連想するような、なんだか惹かれる魅力がありました!

 音楽としては、劇伴を手がけられた「rionos」さんが本当に大好きです! 『クジラの子らは砂上に歌う』のエンディング曲の静かな歌がとても大好きで、『さよならの朝に約束の花をかざろう』や『あさがおと加瀬さん。』の劇伴がとても丁寧で優しくて素敵で大好きです。
 そして本作『フラグタイム』も、優しくて素晴らしい音楽でした!
ArAー1

ArAー1