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パピチャ 未来へのランウェイのレントのレビュー・感想・評価

4.4
女性の意思を縛る拘束衣

古代から人間社会は男性優位社会。人類最古の差別は女性差別であり、それは今も根強く残っている。
古代ギリシャの哲学者アリストテレスでさえ、女性を男性より劣るものと考えていた。そしてそのような考えは世界宗教の誕生で、その教義を曲解することでより強固なものとなっていった。

イスラムの教えにも女性は綺麗な部分を隠すようにとの教えがある。なんとでも解釈できる文言だ。心が綺麗であれば普段はそれをひけらかさず内心にとどめていなさいとも解釈できる。
しかしこの教えを男社会は自分たちの都合のいいように解釈し、女性を都合よく支配したいがために女性は髪や肌をむやみに露出してはならないとしてヒジャブの着用が古くから風習として残った。
ただ、このような風習はほとんどの世俗化したイスラム教圏の国では任意であり強制されるものではない。
そもそも、着る服を強制するなど人権侵害の最たるものだ。人はどのような服を着てどのような髪形をするか、これはまさに自己決定権にあたる権利でこれを制限するしきたりなどはあってはならない。

この作品が公開されたすぐ後にイランではヒジャブの着用をめぐって女性が連行され、その後亡くなるという事件が起こり、国内は反政府デモで揺れ動いた。イラン革命後政府は西側諸国の影響を断ち切るためより堅固なイスラム社会の建設を目指し、イスラムの戒律を守るよう厳しく取り締まるようになっていた。
ちなみに取り締まる側の道徳警察の言い分を聞くと苦笑してしまう。我々は女性が肌を露出することで男性から襲われるのを防いでいる、女性を守るために取り締まりをしているというのだ。
しかし拘束された女性の中にはレイプ被害が後を絶たないという。それに男性が女性を襲うのは肌を露出してるのが悪いのだというのは男性のいつものすり替えでしかない。日本でもDJの女性がファンに触られる被害があったとき同じような言動が巷にあふれた。当たり前のことだが悪いのは襲った方だ。ただイスラムの国ではいまだにレイプされた女性の方が襲った男性よりも厳しく罰せられるという慣習も残っている。


多くのイスラム教圏の国々では西洋化はもはや止めることはできない。それは自由平等を意味するものだし、国民は一度味わった西洋文化を忘れることはできない。
今でも米国を敵視するイラン政府はヒジャブ着用を間接的に強制する新たな法律を制定しているが女性たちは日々命を懸けて戦っている。

本作の舞台アルジェリアもイスラム教の国だが、やはり女性の人権に理解ある統治者によって西洋化が進められてきた。しかし、フランスからの独立後の内戦ぼっ発で過激なイスラム原理主義者たちによって国内は戦渦に巻き込まれる。

テロによる市民やジャーナリストへの無差別殺戮が絶えない混沌とした時代、デザイナーを目指す主人公ネジュマはやはりジャーナリストだった愛する姉の命を奪われてしまう。そんな悲しみの中、彼女はファッションショーの開催を計画する。

彼女の住む街には徐々にヒジャブを強制するポスターが次々と貼られ、ついには学内にまでそれが浸食してくる。街中の壁面には戒律を破り罰せられた女性が書かされたであろう「生きててごめんなさい」の文字まで。
洋服に使う装飾品店はいつの間にかヒジャブ専門店に様変わりしていた。そして過激派だけでなく同じ男子学生たちでさえ、女性に対する偏見は同じだった。
学食のジュースには女性の性衝動を抑えるための臭化カリウムまで混入されてる始末。
まるで彼女の住む町はどんどん監獄のような様相を呈してゆく。ファッションショー開催はそんなイスラム過激派が進めるヒジャブの着用圧力などに対する彼女なりの抵抗でもあった。

そして仲間たちの協力を得てファッションショーは無事開催されるが、その時衝撃の事態が起こる。

これはフィクションだけど実際このような無差別テロで多くの市民の命が失われた。本作の監督は安全のために家族とともにフランスへ移住したがどこか後ろ髪を引かれる思いがあったのだろう。ネジュマは移住のチャンスがありながら母国に残り戦うことを誓う。それはまさに監督が自分の思いを主人公に託したんだろう。

彼女の挑戦は悲劇的な結末を迎える。救いのないラストかと思ったが生き延びた友人のおなかの子供は無事だった。新しい命の誕生を思わせる場面で本作は幕を閉じる。この生まれてくる子供のためにもこの国の未来のために戦っていこうという監督の思いが伝わってきた。

日本の女性差別はここまでひどくないにしても、やはり相変わらずジェンダーギャップ指数は125位の低い位置、ちなみにアルジェリアは144位だ。
最近母子家庭の家の子供は三食食べれないと募金の広告をよく目にする。父子家庭ではあまり見かけない。これは明らかに女性への職業差別を続けてきたことに起因する。女性への差別の結果、この国の未来を担うであろう子供たちが貧困に苦しめられている。女性差別がこの国の未来を危うくしているのだ。過去のアルジェリアでは女性の労働力も国を支える貴重なものとして、女性の社会進出を積極的に促していた時期があった。その点では日本はアルジェリアより遅れていた国といえるだろう。
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