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ジャックは一体何をした?の15bluelavenderのレビュー・感想・評価

ジャックは一体何をした?(2017年製作の映画)
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『ジャックは一体何をした?/What Did Jack Do?』

今回はいつもより長くなってしまいました(・∀・;)

なるべくネタバレに配慮したいものの、色々と書く事が増えて多少内容に触れている事を予めご承知おきください。



疲れ切った日、わたしはNetflixのおすすめ画面をスクロールしていた。

リモコンを手にしたまま見慣れた顔に気づき、『ジャックは一体何をした?』に出くわす。

リンチの名前、そしてタイトルに「ジャック」

作品を追えていなかったわたしにとっては初見の衝撃だ。即刻引き込まれた。

17分の短編となる本作は、デヴィッド・リンチが手がけたフィルムノワール。

ロックダウンされた駅の一室で繰り広げられる、リンチ演じる探偵(または刑事。解釈がWikipediaと各映画レビューサイトで異なりますが、こちらでは刑事で表します)と、鶏殺害の罪で尋問を受ける猿のジャックの会話劇。


本作は2016年にカルティエ財団のコミッションで生み出され、リンチ主催の「Festival of Disruption」でも上映された作品だそうです。

この作品は、リンチの特有な不穏さが漂う難解な物語で、レビューには理解不能という感想が多く、好みが分かれる作品でもあります。


迷わず視聴を始めると、現在の2020年代には懐かしきフィルムノワールの要素と独特のノイズが絶妙に交わり、『イレイザーヘッド』を彷彿とさせる場面がちりばめられている。

現代技術で容易にできるであろうに、猿のジャックの口元の馴染まない合成で時代に逆行し、違和感を生み出している。

これが現代映画の中でも変わらぬリンチの手法なのだろう。

30分前に注文したコーヒーを運んでくるウェイトレスは、リンチの4番目の奥様でもあるEmily Stofle。

コーヒーのアップの画面だけで不穏さが漂い、何かが始まる合図のよう。

コーヒーをすすめる刑事(リンチ)に被疑者(ジャック)は

「飲むかもしれないし、飲まないかもしれない」

物語が動き始めます。


タバコの煙、リンチの白髪、ジャックの白い毛色が黒い背景と調和し、各要素が引き立てられる。

ジャックの言葉は感覚的であり、哲学的で難解。

「当時の生活はハードだった。ココナッツが割れるほど硬い(ハード)」

「初めての真実の愛だ。真実の愛はバナナだと人は言う。黄金色の甘い果実だ」

といったジャックのセリフが、リンチの独自のセンスを感じさせる。


途中、唐突に始まるあのジャックの場面の歌声もリンチ自身が関わっている可能性が高く、『イレイザーヘッド』のラジエーターガールを連想させる。

イレイザーヘッドでは、劇中曲『In heaven』の作詞もリンチ自身が手掛け、後にPixiesや様々なアーティストにカバーされるほどの印象的な歌となっていますね。


『イレイザーヘッド』で主人公ヘンリーを演じたのはジャック・ナンス。

ヘンリーはリンチ自身の投影とも言われてますね。



リンチ74歳の誕生日の2020年1月20日、Netflixで配信開始したこの作品。

澄んだ瞳の猿のジャックから嘘や感情、思想が吐露される。

可愛らしく見える生き物ですらその心の奥底が見えない。

彼らの世界にも血塗られた過去が潜んでいるのかもしれない。

しかし、純粋さゆえに残虐な行為に躊躇いなく手を染める姿は、人間としての本能を問い直すようでもあります。

National Geographicのような世界で見かける「猿」のジャックが知性を備えている一方で、残虐性も同居している。

これはまるで人間そのものでありながら、獣の本性も感じさせる。

だからこそ、人間とは何かについての疑問が湧き上がるけど、それは観る側に委ねられるべきでしょうね。

人間も同様で、見た目だけでなく影が濃ければ濃いほど、光輝いて見えるのかもしれない。


卓上の物も出しっ放しで、作業も忘れて17分間を没頭してしまった。

短編なのでこの日は繰り返し3回鑑賞。


語り尽くせないほどの魅力を秘めた『ジャックは一体何をした?』

考えるより感じる系の作品ですが、まだまだ語りたいのに話す相手が居らず、一人で観たのは残念でした。

しかし、再び独りで観返したいという思いも湧き上がり、デヴィッド・リンチ作品の不可解で深遠な魅力に心奪われることは尽きないと感じました\( *´ω`* )/
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