桃

すべてうまくいきますようにの桃のネタバレレビュー・内容・結末

4.0

このレビューはネタバレを含みます

2023年5作品目。

なんとか間に合い、鑑賞。

友人に教えてもらい、高齢者の余生の向き合い方、父と娘という2つのポイントから、必ず観たいと思っていた作品。

わたし自身、5年前に父を原発不明がんにて亡くしている。
どうしても、アンドレと父を相対しながら観ずにはいられなかった。

自分の父は、痛みに耐えながらも、最後まで生きることを諦めなかった。あれだけ喜怒哀楽が激しく子どものようだった父が、最期の時間が近づくに連れて、優しい言葉ばかり残して行った。
アンドレの最後の晩餐はマニュとセルジュと行ったお気に入りのレストラン。
わたし達にとっては、病院のラウンジのテーブルで、家族揃って囲んだ母特製のおせち料理。父が毎年楽しみにしていたものだ。
その最後の晩餐の10日後に父は逝った。

父にも、アンドレにも、家族を困らせないようにという愛がきっとあったんだと思う。その姿勢にこそ、尊厳を感じる。

尊厳死が正解か、どうか、なのか。
冒頭に述べた友人の両親は認知症が始まっている。
自らの余生をどう過ごしたいか?それは家族がどこまで相談可能なのか?その調査や会話は十分なのか?
どこまで向き合っても、正解はわからない。
本人の意識があやふやになっていく場合、身体のリミットより、コミュニケーションのリミットでの焦りというのもある。


余談が過ぎた。

今回の作品、
描き方によってはみるのがただ辛いものになったであろうが、お涙誘う演出でなく、きちんと我々に冷静に向き合うためのバランスをとらせてくれているように思う。

パートナーのセルジュや、同室の男性患者、孫のラファエル、スイスの安楽死支援協会の女性など、脇を固める人々の存在が、とても観ていて救われる。

困り者のジェラールでさえも。父のことをこんなに執拗に追いかけ、死についてストレートにショックを受ける存在(アンドレが義父母とのエピソードで語っていたようにホモセクシャルであったことから、恐らく元恋人なのだろう)。
厄介であるのは間違いないものの、孤独もあるアンドレにとっても、娘たちにとっても、どこか貴重な存在であったように思う。(アンドレは尊厳死について、従姉にはうまく話ができなかった。娘たちに対する態度とは実際は異なる部分もあるのだ。家族と他人と中間の第3者の存在の有難さ。)

あとは、アンドレをスイスに車で送る、イスラムの青年2人。
ラストの、娘2人がアンドレに車内で挨拶をするシーン。生々し過ぎて辛い。
その直後に、明るいトーンで扉を閉めて走り出す2人の存在がなんとも救い。ベルンの白い山脈もなんとも美しかった。


父を見守り、見送る、2人の姉妹。
息のあった姉妹であったことも、とても救いだったろうと思う。

残り時間が僅かとなった家族と、どう向き合うか。一瞬一瞬が大事ではあるものの、見守る側の心身のケアも大事だ。

マニュが10月の海で泳ぎ、風邪をひき、
その後は1週間ウイルス感染で看病ができなくなる。

結局のところは、どれだけ向き合ったかに、これ以上もこれ以下もない。
残された家族はそれでも生きていかないといけないのだから。
2人の子どもを育てる妹パスカルに、アンドレは負担をかけないようにしていたように思う。(最期に、いたずら顔で「マニュの小説のネタになるかな」という一言も、バランスをとっていたように思う)

何度も、「救い」という言葉を重ねた。

実際に家族を見送る、となった場合、
これらの「救い」があって欲しいと思う。
わたし達が父を見送るときには、ラッキーなことに、「救い」はあった。

どんな家族にも終わりは来る、
その時に、残される人々にも、旅立つ人にも、「救い」がありますように。


-(最初の病院の同室で親切にしてくれた男性から、自らの退院の話と合わせて、転院の見送りの挨拶に言われた)彼はラッキーだ、あなたみたいな娘がいるんだから

-(クリニックの医師から)生きる意思がなければ衰弱してしまいます
桃