金正恩

オッペンハイマーの金正恩のレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
5.0
原子爆弾を開発した「原爆の父」として知られる理論物理学者J・ロバート・オッペンハイマーを描いた伝記映画。

映像面では、監督クリストファー・ノーランがアナログ撮影にこだわったことで生み出された臨場感が圧巻だ。量子物理学の神秘性と核兵器の脅威を見事に表現し、美しくも緻密な映像世界に観客を惹きつける。
一方で、原爆投下そのものの直接的な描写は避けられており、この留保が登場人物たちの罪悪感と重なり合うように感じられる。加えて、自分たちが虐殺に加担したことを理解せずにただ喜ぶ一般大衆を描き、アメリカ国民の無自覚な加害性を断罪している。第二次世界大戦を題材にここまでアメリカ国民を痛烈に批判したハリウッド映画はこれが初めてのようにも思える。

時系列がシャッフルされているのがノーラン監督の得意手法だが、これが観客に疑問を投げかけ続け、好奇心を掻き立てる。過剰な説明を控え、散りばめられた断片的な情報から物語の本質を紡ぎ出すよう観客に促している。視覚と音響の見事な融合が、言語を介さずに直接物語の世界に誘う。

この作品は、人類を滅ぼしかねない技術を手にすることの危うさを問いかける。残念ながら、日本では世界に比べ公開が大幅に遅れた。議論を喚起するこの作品を、敢えて上映を避ける姿勢は、まるで言論の封殺のようで幼稚である。日本が、世界と同時期にこの重要作を掘り下げる機会を逸したことは、大きな損失と言えよう。
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