空化

魔法少⼥マジカルデストロイヤーズの空化のレビュー・感想・評価

1.0
本当に面白くないアニメだった。誇張抜きに。
でも「面白くない」に対して整合性があることが終盤で証明されたのは面白かった。
1話~10話まで本当に面白くない。
面白くないのに、OPとEDだけやたらと気合が入っていたから

「これは最後で凄い展開が待っているに違いない。面白くないと思っている視聴者をあっと驚かせるような仕掛けがきっと待っているだから耐え難きを耐えるのだ」

とガマンして……いや、ガマンと言うより余りに面白くないので一周回ってエンターテイメントとして消費していた。





この作品において、特に致命的に良くないと感じたのは時代遅れなテーマだ。

魔法少女マジカルデストロイヤーズのテーマは「好きなものを好きと叫ぶ」

作中ではオタクが不当に弾圧されていて「好きなものを好き」と叫べないから、主人公オタクヒーローはテーマでもあるこの台詞を何度も叫ぶ。
しかしそれを見るたびに私は

「いや、私たちオタクはSNSやらで好き勝手に叫んでいるが……」

としか思えなかった。
この作品が70-00年代付近のオタク冷遇の時代に存在していれば「こんな時代もあったのだなぁ」と思えなくはないだろう。
しかし今は何を隠そうインターネット全盛期、誰もがインフルエンサーになれる2023年だ。
ファン達は指先一つで繋がりを得て、容易にコミュニティを作成・参加することが出来て、そして常識の範囲内であればいつでも好きを叫んで構わない……居心地のいい空間を作りやすくなった時代だ。

そんな時代に「好きなものを好きと叫ぶ」をテーマに掲げられたところで、何に心動かされることがあるだろうか。
2023年において「好きなものを好きだと叫ぶ」をテーマにするなら「好きなものを好きだと叫ぶ責任」
オタクは発信を懇願する側でなく、発信する責任を負う側に回る必要があるだろう。

繰り返しになるが、現代においてオタクは好きと叫ぶことを制限されていない。
むしろオタクは現代において発信することの責任を負う時代だ(オタク問わずに発信には責任がある)

オタクかどうか関係なく、また対面、オンラインの場所を問わず発言に対して誰もが無責任ではいられない。
誰でも発信できる時代において「叫ぶこと」を主眼に置くより「叫ぶ責任」にテーマを据えた方がより時代に寄り添った作品づくりとなっただろう。

また本作はオタクを不当に抑圧させることで、所謂サクセスストーリー的にオタクを描いた側面もある。
そういった描き方に酔いしれてオタクを不当に賛美してはいけない。
オタクの多くは「好き」に囚われて善悪の区別が容易につかなくなる愚かな存在だ。
エイプリルフールに起きた同性婚を揶揄した女性声優のクィアベンディングに対して発せられた女性声優への擁護、芸能事務所の性暴力問題を意に介していないオタクなど。
私たちは「好き」に囚われていつでも盲目になってしまうことを忘れてはならない。



そしてシナリオに目を向ける。
最終話一歩手前の11話。
敵の親玉であったショボーンが、世界の創造主たるクリエイターであることが判明する。
また、ずっと主人公と行動を共にしていたマスコットの狂太郎がショボーンを創造主へと押し上げた「神」であり、ショボーンの創り上げたゲームのプレイアブルキャラクターだった。

現世においてショボーンは引きこもり気質のゲームクリエイターだった。
しかし作品を公開する度に厳しい評価や誹謗中傷を浴びせられたことで、オタクを心底嫌っていた。
そして神によって創造主へ押し上げられたショボーンはオタクを排除する願望を成就させるためにゲームを作り上げた。
そのゲームこそが「魔法少女マジカルデストロイヤーズ」だったのだ!

そんなヘイトにまみれた作品……糞ゲーをオタクは大嫌いなんだ!!

とオタクヒーローが叫ぶ。
この設定により1話~10話までのクソみたいにつまらなかった展開に理由付けが行われた。
物語でいつかOP/ED演出が回収されるだろうと思っていたが、まさか作中の面白くない部分に根拠がもたらされるとは微塵も思っていなかった。
私は「このアニメめちゃくちゃつまんねえな~」と思って見ていたから理由付けがなされたことは素直に感心したけど、逆に本作を「面白い」と評価していたファンはどうなるんだ……? と心配した。



「面白くない」に対して根拠はもたらされた。
となれば大事なのは1~10話まで「面白くない」作品にしたから11話以降は「面白くない」をぶち壊して面白い展開にしなければいけない。

しかしというか、やはりその後も面白くなかった!!!

そうなると面白くならないことに整合性とれてたのはきっと私が都合よく解釈しただけなんだろうなと寂しくなった。どうしてくれるんだ、魔法少女マジカルデストロイヤーズ。





作画は序盤からずっと崩壊していて終盤で少しまともになったかと思いきや、最終話Bパートが壊滅的な作画で学生の自主制作レベル。

シナリオはこれまで見た作品の中でダントツで壊滅的だし、作画も2020年代の作品とは思えぬほど壊滅的で本当にいいところが無い作品だった。
良かったと言えるのはOPとEDくらいだろう。

しかしシナリオもショボーンを創造主だったとオチがあると不可解な点が沢山出てくる。
「創造主」のような万能である存在を出すと
「なぜアレができないのか?」
と矛盾が発生しやすいように思うが、その矛盾が多発している気がする(謎のアメリカエージェントだったり懐古主義オタク軍団は何だったんだ)
オタク捻り潰すためになぜわざわざ負けキャラを作っていたのか、なぜ四天王がボコボコに負けまくるのか、なぜ創造主なのに想定外の事実が発生するのか。
そこまで細かく突っ込む作品ではないだろうが。

また作中では様々なパロディが見られたが、本編の出来が絶望的に良くないので非常に不快。
パロディで遊ぶな。作品のクオリティあげることに集中しろ。

「好きなものを好きなだけ好きと言える重要性」が大きなテーマだったが、この作品を「好き」と話すのは恥ずかしくて無理だろう。
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