●第1週
椿屋の女将吉岡滝乃(大竹しのぶ)と佐々木春夫(段田安則)愛子(賀来千香子)夫妻、親戚かなんかかと思いきや全くの他人だった。戦後、身よりのない3人が助け合ってというのは分かるが、どういういきさつで知り合ったのかはナゾ。しかもどういうわけか佐々木家の長女を我が子のように扱いお母ちゃまと呼ばせる滝乃。養女にして跡取りにしたいのかと思ったが、いいところへお嫁にやるのだと言っており、ますます意味が分からない。滝乃もなかなかヤバイが春夫が滝乃に想いを寄せていたという過去(?)があり妻愛子の地獄の釜が開く。朝ドラクラスタとしては國村隼と藤山直美が同じドラマに出てるととってもワクワクするのだった。蔵さんがめちゃ若い!
●第2週
〈10歳になった美月。父親とは何年も話をせず、自分の本当の気持ちを言える術であった英語も口にしなくなった。愛子(賀来千香子)は美月との時間を作るために椿屋を手伝うようになっていた。また父親の春夫(段田安則)が呼んでいない父親参観にやってきて美月が学校に行きたくないと言い出し、君ちゃん(藤山直美)と撮影所に行き元気を取り戻す。〉1週目をトレースしたような内容。弟の梓にはいつも春夫がついているが、いびつな家族模様は引き続き不穏。撮影所の助監督?役で堺雅人が初登場。これから君ちゃんとなにかありそう。美月をめぐるママとお母ちゃまのエピソードがド暗いので君ちゃんとのシーンが際立つ。撮影所につながる人として美月の唯一の光なのだ。
●第3週
〈撮影所は一見華やかな世界だけれど本当は汚い世界だから近づいてはいけないというお母ちゃまに嘘をついて美月は撮影所に潜り込む。東京オリンピックの頃、テレビの普及から映画業界は斜陽を迎え、大京映画の看板スター、モモケン、クリキンは独立を発表し、幹幸太郎をどうにか盛り立てようと企画を考えていた。〉
たいして話は進んでいないが美月は誕生日にパパからカメラをプレゼントされ、写真を撮ることが趣味になり、黙って撮影所に出入りするようにもなり、子役の男の子と仲良くなるきっかけを得た。パパの言動は相変わらず。滝乃もいまだ何を考えているのか分からず、やたらコワイ。
●第4週
〈君ちゃんが美月に習って書いた杉本に宛てたラブレターが黒田社長経由で椿屋の滝乃まで戻ってきた。滝乃は身分違いの恋は不幸の元だと君江をキツく諭す。美月は自分もテレビ禁止、外出禁止にしてほしいと滝乃に食い下がる。夏休みになり美月は子役の晋八の付き人になった気で撮影所に出入りし、どうしても川に飛び込めない晋八の代役をこなす。お母ちゃまと美月の間の溝は深まり、滝乃は思い余って美月を養女にくれと春夫と愛子に頭を下げる。〉
視聴者すべてを敵に回す勢いで美月にうどんを持ってきた晋八を追い返し君ちゃんを椿屋から追い出し美月の産みの母親の愛子にも情が薄いなどと暴言を吐きまくる滝乃。このあたりで滝乃がなぜこんな風になってしまったのか訳を聞かせてもらわないと視聴率がドーンと下がりそう。
●第5週
〈滝乃が美月を養女に欲しいという話を美月が聞いてしまい2人の母の板挟みとなりどっちにも行けなくなった美月は君ちゃんの元へ行く。君ちゃんは荷物をまとめて椿屋を出て行こうとしていた。美月は君ちゃんとともに家をでて夜行列車で熊本へ向かう。〉
滝乃は椿屋の跡取りとして産まれたことで、子どもらしい時代を奪われ、自分で何も決めることなく成長してしまった。自分とは正反対の人生を美月に歩んでもらいたかったというのが言い分だけど、それにしても他人の子にどういう権限でものを言ってるのか理解に苦しむ部分が多い。しかし大竹しのぶがその我儘な部分を隠すことなく表現することで滝乃の苛立ちや哀しみがストレートに伝わってくる。嫌な女だけどその存在に説得力があるところはやはり凄い。第5週までは美月の心の支えにもなっていた宮本君江を演じる藤山直美が視聴の原動力になっていた。彼女が居なくては見続けることができなかった。おばあちゃんとのエピソード、お誕生日おめでとうのゆで卵と浴衣には泣いてしまった。そして6年の歳月が流れやっと17歳の美月を演じる岡本綾が登場する。映画を作る人になるのかと思ったらまずは女優になるらしい。
●第6週
〈大学に進学せずに女優になるとお母ちゃま、パパとママに宣言した美月。大京映画の黒田社長に頼み込み大部屋女優からスタートする。そこでは新人のみそぎと称するいじめが横行していた。〉1週間しょうもないいじめを延々見せられてストーリー的にはかなりゲンナリ。穴にズドンとハマるとか壊れると分かっている椅子に知らないテイで座る芝居はなかなか難しいと見えて岡本綾の芝居がぎこちない。最近は朝ドラでまったくの新人女優を起用することがないのでこういう感じもまた懐かしい名物風景なのかもしれない。アメリカナイズされてても、これまでまともなことを言っていたパパが梓の医学部志望を潰そうとするなどさらにイライラがつのる。急に建築家の話されてもねぇ。それを娘のせいにするとはこの数年でボケたのか。大部屋俳優かませ犬のジョーこと長嶋一茂が二度見をする男前の役。いまのとこ無表情でセリフがあんまりないのがまたいい。オードリーと聞いて笑わず怪訝な顔もしなかった杉本の特別感はこれから美月と何事かありそう。その前にかませ犬のジョーだね。美月の初恋か。
●第7週
〈大京映画久々の超大作「無頼人」にセリフが一言ながら役付きになった美月。黒田曰く、さらにいじめが白熱しすぐに根を上げて辞めるだろうという目論見だ。美月は本番で助けてくれた錠島に恋心を抱く。クランクアップのタイミングで幹幸太郎は大京を去り、大規模なリストラが行われることになる。〉
週半ばまで美月へのいじめは続き映画のクランクアップで晴れて斜陽映画会社の大部屋に仲間入りとはうれしくないにもほどがある。好きだのなんだの小学生レベルの会話も辛い。ジョー役の長嶋一茂はやはり長ゼリフとラブシーンのぎこちなさはあるが立ち姿の雰囲気はいいし、なにより華がある。梓は勉強に集中できる静かな環境を求めてとうとう家をでる。今だにあの家から引っ越さない父親の子にしては独立心旺盛で将来有望。でもワタシは知っている。5000円の部屋が静かで環境がいいわけない。たぶんオヤジのタイプライターの方がマシだと思う。
●第8週
〈大京映画は監督や中堅は全員、さらに大部屋の数人をリストラした。もみじやロクさんお地蔵さんは大京を去る。そして黒田社長(國村隼)はテレビ映画に乗り出すにあたって杉本(堺雅人)を監督にし、企画、スタッフ、キャストの全てを一任する。錠島は「誰も信じない」と美月に言うが、「自分に自信を持って」と真っ直ぐにぶつかってくる美月とだんだん距離が近くなっていく。愛子は美月に好きな人ができたことや梓が家を出たこともあり、気が気でない。そこにベトナム戦争に従軍しているいとこのリチャードが休暇で佐々木家にやってくる。〉今までゆるゆるやってきたのにいきなりエピソード盛りだくさんの週。大京映画の転換期に、いとこのリチャードの佐々木家訪問とベトナム戦争のPTSD、錠島の知られざる素性と本名、梓の安普請アパートひとり暮らし、トドメが美月の恋に割って入る両親とお母ちゃまという…。長嶋一茂が鍛えすぎて洋服だとガチムチしすぎてるのがすごく気になる。衣装は着物にしてセリフ少なめでお願いしたい。ラストには3人から攻撃されてとうとう美月はパンドラの箱を開け放つ。いつも言いたいことを我慢してると言う割には言えば言ったで急所を一撃するタイプだった。こえぇ。
●第9週
家族に爆弾投げ込んでドンパチしてる間に恋に邁進するヒロイン佐々木美月。「私、錠島さんを変えたい!」「俺は変わらない!」の美月と錠島の押し問答に心底、どっちでもええわ!と思いつつ、そんなことより杉本監督の新企画を早う!とヤキモキする。晋八に芝居が下手だから殺陣師に転向しろとここにも急所を一撃する人間がもうひとり。それより杉本!早く!新企画を!!愛子は美月の恋に一定の理解を示しながら錠島と話し合ったらどうかと言うが滝乃は反対の姿勢を貫き、ひとり錠島のアパートに手切れ金を渡しに行く。撮影の始まらない美月を椿屋の手伝いとして留め置きその間に諦めさせようという狙いだ。必死な滝乃を嘲笑うかのように2人は接近してゆくのだった。「俺を変えてみろよ。」「ちょっと変わったて思う。」「そんな簡単に変わるかバカヤロウ。」おふたりさんまだやるのんか…。そして相変わらず9週目になっても同じスタイルでお母ちゃまとママとパパはあーでもないこーでもないと言っている。西太秦駅に9時の約束に錠島は来ない。雨の中大泣きする美月に傘をさしかける人物、東京に行こうとやってきた晋八だった。子供の頃に美月が晋八の代わりに飛び込んだあの橋の上でプロポーズする。「嫁さんになってくれんでええから俺を斬ってくれ!」美月に斬られて川に飛び込み、「役者の晋八は死んだ!殺陣師の晋八だ!」来週につながる展開として晋八が役者稼業を吹っ切れてなによりだが、錠島のギザったらしいセリフと無表情でぎこちない動きがそろそろ限界に達してたけど、河辺の一夜で美月の言葉をおうむ返しに喋ってるのがほとんど催眠術にかかってる風情でこれまでで1番面白かった。
●第10週
錠島と美月の恋物語はまだまだ続くようで「お前が背負ってる世界は俺には重すぎる。このままいっても傷つくのは俺だ。所詮俺はだれとも並んで生きていくことはできない。」などとジョーにふんわりしたことを言わせてまだ打開策のありそうな雰囲気を漂わせている。迷いの中にある人々の中でひとりブレないのは滝乃だけで「あんたは利口な子や」「ひどい男から神様が守ってくれた」とか自分に都合の良い慰めともつかない言葉がツラツラでてきてさすがだった。やっと杉本の企画書案が提出され、晋八の殺陣訓練も始まる。3人組で悪と戦う必殺仕事人のイメージか。昔の劇団にありそうな謎訓練だったけど、晋八はいったいどこからあのメソッドを編み出したのか。7年ぶりに椿屋にやってきた君ちゃんは好きな人はたとえ違う星に生まれたとしても諦めたらアカンと美月の背中を押す。君ちゃんの言葉で泰子は笹守の彰との結婚を決め、晋八も夢死郎の殺陣プランが見えてきた。物語の展開を担う役割以上に藤山直美はやっぱり上手い。淀んだ物語に一陣の風が吹いたようだった。なかなか脚本ができないせいで各方面に支障がではじめている。ジョーはまた企画がポシャりそうな己の運命を呪い勢いで美月を押し倒すも激しく抵抗される。さらに「悪役」としか説明のできない状態では幹幸太郎も微笑みはしない。あまりに無能すぎる関川P。そして美月が見せた晋八の殺陣で幸太郎が考えを変える流れになる。これは佐々木蔵之介の見せ場がやってくるターンだ。
●第11週
1話目のゲスト悪役も決まりやっと動き出した大京映画テレビ時代劇「斬殺浪人夢死郎」。しかし監督と殺陣師、雇われ脚本家、関川の間で残酷表現をどうするかで紛糾する。ジョーは自分の精神の安定を求めて美月に会いにくるし、美月を行かせまいとお母ちゃまは頑張るし今週もくっつくのくっつかないの問題をひっぱる。樹里はコナかけてる男の中で唯一脈のありそうな虎之助に昔の少女マンガのイジワルキャラそのまんまの悪事を耳打ちするのだった。関川Pはクリエイティビティはまったくないが、二階堂樹里の去就について考えているなど調停役や事務方の仕事に関してはまともでホッとした。今週最大のエピソードは美月と錠島のベッドならぬおふとんインだが、棒が2本横たわっている感じでちょっと笑ってしまった。それより美月の初体験を家族が知っていないといけないという発想が異常だと気づいていないママとお母ちゃまが大問題。美月が錠島の部屋から帰ってきた時の顔を見てセックス後の顔だと血相変えて布団部屋で密談してたのが1番キモかった。直後に妊娠しないようにと諭される娘の気持ちよ…(美月は平気そうだったけど)。そして美月は恋が成就したとなると次は駒の気持ちが理解できないとウダウダと悩み、監督と話しても理解できず、錠島に愚痴をこぼせばキレられる始末。自分に自信も余裕もない上に、セックスした女の前では態度のデカくなる男の典型をみせられてゲンナリしたまま週をまたぐ。予告を見た限りでは、私の中の滝乃が「錠島、殺したる。」とつぶやいている。
●第12週
斬殺浪人夢死郎の撮影が始まる。美月は冒頭の駒と善四郎のシーンで至福の表情で斬られて欲しいという監督の要望に悩み、NG出しまくってジョーにキレられ、腕も足も傷だらけ。恋愛感情が入っているので芝居が難しいという話だったが視聴者はそんなことより、ジョーのDVの方が気になるのであった。「もうあかんと思う。」と言いながら「会いたい。」と言われればすぐにジョーに会いに行くヒロイン。甘えとしか思えない駄々をこねていちいちモノを壊すジョー。やればやるほどふたりの棒演技もあわせて辛さがすっかり累積赤字。痴話喧嘩でゲンナリし、芝居の下手さでなぜかこっちが恥ずかしくなり、もう終わりにして欲しい…と何度も思う。さらに杉本の「夢死郎はゴッドファーザー」発言がまったく意味がわからない。杉本はとかく「至福の表情」推しで美月と視聴者をこれでもかと戸惑わせる。そして樹里は京都でゆっくりしてる場合なのか。ポケットえりかちゃんの撮影はどうしたのか。来週も続きそうなジョーと美月の恋模様。そんな予告を死んだ目で見つめるのであった。
●第13週
錠島に拒否され美月の恋は終わったかに見えた。「斬殺浪人夢死郎」は当たり、第2シリーズが決まったが、現場は御大を迎えててんやわんやなのだった。モモケンは自分が偽平次なら本物の平次はそれなりの役者を連れてこいと立腹し(社長の黒田、自ら出演することで事なきを得る)ジョーはクリキンに当てない殺陣を見てこんなのは夢死郎の殺陣じゃないと控室に籠ってしまう。スターの沽券に振り回され気の毒すぎる撮影現場。そこに鼻の穴膨らませて正論で切り込むオードリー。みんなスターのわがままだとわかっているが現状スタッフの分際でできることは限られており、諦めの境地なのだった。さらに美月は終わった恋の距離感がバグってるのか、ジョーを「あの人」呼びしつつ晋八に辞めずにジョーと交渉してほしいと頼み込む。その気持ち悪さたるやなかなかのもので晋八が怒るのも無理もない。新聞紙上において夢死郎の残酷表現が問題になるが黒田はこれはごく少数の意見だと強気の記者会見を開き、錠島と樹里、恋人同士の共演から始まる第2シリーズの宣伝をねじ込む。また撮影がはじまり、樹里の付き人に指名された美月は樹里がグイグイと錠島に近づく様子を見て人知れず衣装部屋で泣いているところを晋八に見られ、慢心しているジョーの性根をたたきなおすという名目で美月になりかわりその哀しみをジョーにぶつける。当て馬にもならぬ晋八がかわいそうすぎて泣けてくる。椿屋と佐々木家は美月と梓の遅れてきた反抗期にみまわれていた。成績が不信なのを知った両親に梓は「(みんなオードリーオードリーでほったらかしだったのに)いまさら気にするな。」とは言うが、梓自身は美月に対してはひねくれた感情は持っておらず、珍しいことに姉弟仲はとてもいい。美月は滝乃に対して椿屋を「牢屋」と言い放つぐらいの苛立ちをかかえていてこちらの方が大問題なのだった。夢死郎が人を殺すシーンを見て妻を殺したくなったという殺人未遂事件が発生し、テレビ局やスポンサーが夢死郎に難色を示し始め、一気に暗雲が立ち込める。ジョーはまた運がないと愚痴りはじめてデジャヴ感がスゴイ。いま何週目のオードリーなのかまたまた迷宮にハマりこんで行く。いつも前向きな樹里の方がなんだか健全に見えてきた。黒田社長の逆ギレ記者会見が裏目に出て大京映画はさらなる窮地に立たされる。関川黒田の女装が笑うところなのか迷う視聴者、一方黒田社長も次なる一手に迷い、雀蓮のお告げにすがることになる。
●第14週
雀蓮のお告げにより残酷表現のない昔の映画、幹幸太郎の「若侍七変化」をリメイクすることになり、記者に追われる大京幹部は佐々木家から椿屋に出入りし準備を進める。撮影開始の一発目がジョーの女装で一同騒然。一瞬にして若侍がポシャると確信させるほどのお見事すぎるインパクト。あの脚本家、実はある意味天才なのかもしれない。さらに結婚して三か月のやっちゃんが佐々木家に逃げ込んでくるという事態に。あの泰子のボロボロの格好を見て笹守彰の浮気を疑うという観察眼をどこに置き忘れてきたのか佐々木春夫。美月は各方面想像もしなかった展開に茫然自失。あの先週の鼻息はどこへやら、やたら大人しいのだった。大部屋連中もスタッフも大晦日のカツドウ屋で腐り切っている中、ジョーと樹里はやってくるわ、杉本と関川はやってくるわ千客万来のカツドウ屋。「どんな作品でもみんなで努力したらええもんができる」は綺麗事すぎる発言だが、杉本相手のジョーの愚痴三昧芸にカツを入れるのはやはり美月なのだった。ジョーの孤独や不安をスター扱いされておかしなったと美月は解釈していてなんだか可哀想になってきた。庇ってやれなかったと言う杉本の方がまだ愛があると思う。若侍の撮影は和やかに進んで、美月がジョーにビンタ張ったあといったいカツドウ屋でなにがあったのか。ジョーが代表として上司に文句言ってくれてみんなスーッとしたのだろうか。若侍、私はけっこう見てみたい。キャッチボールシーンはサービスショットか、いまやバラエティタレント長嶋一茂がかつてプロ野球選手だったのを知らない皆様にトリビアとして置いておく。それよりやっちゃんが笹守に帰ったほうがショーゲキだった。ただの夫婦喧嘩のノリで無策で婚家に帰すとは…。アル中なめたらイカンぜよ。
3年後、大京映画はなんとか生きながらえ、ジョーは若侍の後、大京を辞めて東京に行き、何本かテレビドラマに出たものの行方知れず、杉本は自ら志願して助監督に戻り、大部屋のみんなは映画村でバイトしたりしてその日を暮していた。そんな折、トップ女優となった樹里が椿屋にやってくる。そして椿屋の手伝いをしている美月に自分の付き人として東京に来ない?と誘う。「オードリーを愛した男はみんなズタボロ」と言われてふと思い出すのは杉本のことだった。この気持ちは愛なのか友情か悩んでいる様子だったが、お弁当をせっせと杉本に運び出すわかりやすい美月なのだった。ジョーという男の評価に関しては毎回ブレブレだが、孤独で自分探しに熱心な男が好きというのだけは首尾一貫している。ジョーの次は杉本をターゲットにして執拗に美月に絡んでくる二階堂樹里だが、次第に体調が悪化していく。京大病院の救急外来がテキトー診断をだして樹里を帰したというエピソードは放送して大丈夫なのか。そして雀蓮と黒田の関係とは。もはや願望としかいいようのないお告げに効果はあるのか。実は本筋より気になるのは笹守のやっちゃんなのだが、酒は飲まないと念書とったぐらいで酒乱の彰を花見に行かせたのか…やっぱり早く笹守から逃げてほしい。
●第15週
なんと京大病院への営業妨害から始まるオードリー。病院に行くも行かないも本人の自由なので佐々木姉弟の樹里への説得は本当に余計なお世話としかいいようがない。黒田社長は椿屋の支払いを一カ月待ってくれと滝乃に頼むぐらい大京は傾いていた。樹里は杉本に孤独を癒してもらおうと急接近する。おそらくそういう関係になってしまった杉本と樹里。樹里は杉本に東京にきて自分主演の脚本を書いて撮らないかと誘う。美月は杉本を訪ね、樹里に受診するように言って欲しいと頼み、東京行きについて相談しようとするが樹里が戻ってきてしまう。樹里が言った「そういう手」というのも当たらずとも遠からずの粘着ぶりで、樹里の個人情報をばら撒きまくる美月と、女優として高みを目指そうと足掻く樹里との対決は勝負あった感が漂っている。美月は滝乃に東京にいくと宣言する。樹里に言われた通りのことを理由としてあげているあたりがもう…。そして例によって例の如くお母ちゃまとママは真逆の意見で揉め、パパはまた美月をオードリーと読んで火に油を注ぐ(15週まったく変わらない展開)梓はたよりないが、ママもまた自分の夢を娘に託しているとズバリなご意見をブチこむ。ゲキギレした美月はお母ちゃまは私をペットやおもてるとキツーイ発言を投下するのだった。もうええかげんにして!(←視聴者からの発言)樹里の病名(脳動静脈奇形)を外部に漏らす(しかも公衆電話で)京大の医学生もどうにかして!樹里は治療を受けずに撮影を続行し、美月にマウントを取ることも忘れない。難病を患っているとは思えないほどの全方位に行き届いた負けず嫌いぶりで天晴れとしかいいようがない。本当の病名を知っている美月は樹里に対して可哀想な人の相手をしてます感がスゴくてさらに株を下げる。サイドストーリーとして青葉城虎之介の出生の秘密が明かされる。大京映画は資産を売却し、テレビ映画制作プロダクション大京映画として規模を縮小することになる。みんな首になった中で1人だけ香港行きを打診される虎之介。美月がまた口が軽い…樹里の病名とマジでええ加減にして…。こども(虎之介)が生まれたこともしらなかったクリキンを責めるのもなかなか辛い。それに東の御大の落とし胤を大部屋俳優に押し込めていた黒田の神経もよくわからない。今更香港行って殴られ役になれって言われてもそれはホンマにええハナシなのか?樹里の生き方の問題がいつのまにかこれぞ女優の生き様天晴れ!にすり替わっている。気味が悪い。
●第16週
虎之介は椿屋で待っているクリキンに果し状を渡すように美月に頼み、大京映画最後のオープンセットで対決、一太刀浴びて香港行きを決める。樹里はドラマを撮り終えた後に倒れ杉本の腕の中で息絶える。昭和51年、大京映画は小さなビルの一室で社長、関川、杉本の3人でテレビの仕事を細々と続け、クビになった美月は無気力な日々を送っていた。そんな時に落ちぶれた錠島が太秦に現れ、このまま一緒に流れて行かないかと言われた美月は「もう錠島さんのことは好きやない。」と断る。大京を訪ねるも仕事がなく、いつか映画を作る時のために精進しておけと言われて意外と素直に受け入れるジョー。
そして樹里が退場したらジュリーが登場。作家、麻生祐二(沢田研二)が椿屋の前で佇んでいる。その日から滝乃の様子が変わってしまう。麻生祐二が現れてからお母ちゃまは別人のように綺麗になったと言い聞かせられる視聴者。綺麗になったというよりテンションが異常で怖い。「蜂!キャハハハ!」はマジでコワすぎて震えた。さらに30年の月日を経て再び現れて死んだ妻の残したピアノ演奏のレコードを聞いて欲しいというナゾのアプローチをする麻生祐二もコワイ。そんな滝乃を見て春夫も様子がおかしくなり、佐々木夫婦の仲が悪くなる。そんな両親に医学部についていけないと言って話題を逸らす作戦にでる梓。姉弟仲が良いのだけがこの泥沼ドラマの救いなのだった。麻生祐二からのプロポーズを一旦はねつけながらも結婚することにした、と佐々木家を招集し椿屋を閉めることを宣言する滝乃。気合いを入れるためか直前に麻生祐二に電話し「もういっぺん聞きたいな♡」とプロポーズのおねだりする暑苦しさよ…。しかも自分でかけといてガチャ切りて。テンション乱高下でホントに怖い。滝乃の結婚話に血相を変える春夫は想定内としても愛子名義の通帳の中身はどれほどの金額なのか、いまはそれだけが気になっている。
●第17週
美月はお母ちゃまの好きにしたらいいと言ったりそんな勝手は許さないと言ったり椿屋を継ぐと言ったり、5人家族だの4人家族だのグッチャグチャの話し合い、ではなくそれぞれの意見の押し付け合いが延々と続く。16週ずっと、パパがみんなの前で美月をオードリーと呼んで笑われ、お母ちゃまとママの意見が対立し、その間に挟まれて美月が我慢したりブチ切れたりするを繰り返していたが、すべてこの17週のためだった。この23年をなかったことにしようとしている身勝手な滝乃、滝乃への想い断ち切れず、かといって愛子にも捨てられたくないこれも自分勝手な春夫、なにひとつ思い通りにならず我慢の限界を超え全ての関係を断ち切ろうとする愛子、滝乃へのあてつけのように椿屋を継ぐ美月という泥沼カルテットとは一線を画すように子供の頃から両親にほっとかれてもグレもせず、京大の医学部に入り、父親の失踪にもめげずに奨学金もらって大学に通い続けると言う強メンタルの持ち主、梓だけが救い。人に依存すると人に振り回される人生を生きるしかないのだ。春夫は家を出てアメリカに、滝乃は椿屋を出て麻生祐二の元へ去る。新婚生活は佐々木家の人々の涙の泉の上に浮かんでいるようななんだか地に足のつかないフワフワしたもののように映る。大竹しのぶは身勝手な女の図太さや気の咎める瞬間の繊細さ、中年になるまでじっとりと怨念のようにひとりの男を思い続ける業の深さ、22才の頃のように振る舞うことのイタさ、すべてを表現し尽くしていてさすがの風格。昼は息子の通う大学の清掃、夜は内職をする愛子の元にお久しぶりの関川がやってくる。下心はあるだろうが、そこは梓が上手に割って入って、もうこの子はどこまで出来た子なのかと感心する。椿屋に手伝いに入ったもみじと曜子の絶妙な下品さに戸惑い、常連客の中内先生はセクハラ、椿屋の仕事を全部こなすにはかなりハードで美月は疲れ果て、ママに助けを求める。愛子は滝乃への憎しみを胸に納め、滝乃に美月へアドバイスをしてほしいと頼む。一方、梓はパパのルーツを探るため夏休みを使ってアメリカに行き、パパを見つけて一緒に戻ってくる。梓の尽力と愛子の立ち直りで佐々木家は新たなつながりを作り始めている。よりによって滝乃と春夫が同じ日に帰ってきた。美月、あまりにキャパオーバーすぎないかと心配になる鬼脚本。今週の癒しポイントはジュリーの関西弁。神戸在住という設定だがジュリー自身は京都出身とのこと。
●第18週
今週は春夫、滝乃、美月、リチャード「みんな変わった」がキーワード。そうは言っても、春夫とリチャードは映画制作、美月は椿屋の経営というシビアな問題に直面していて、なぁなぁの判断は許されない。美月があさひ漬けの採用を断ったのも、仕事中に男とイチャイチャする従業員を首にするのも経営者であれば当然だ(弟の交際に口を挟むのはやりすぎだが、大部屋だった時のいじめを思えば致し方ない)滝乃の問題はそれとは別種のもので、麻生祐二はこれまでのふたりの歴史を踏まえた上での提案をし続けているのに、滝乃は頑なに23年前に戻ろうとしている。美月を見るたびにこの23年がなかったことにならないことに困惑と絶望が入り混じったグチャグチャの感情を祐さんにぶつけている。しかし、祐二もまたありし日の椿屋の主人だった滝乃を求めているフシもありどっちもどっちという感じはする。中年カップルの恋の行方はさておき、春夫の甥、リチャードがプロデュースする日米合作のテレビドラマの日本人キャストに錠島の名が上がり、再度登場となる。美月は俺の女神だ、とサブイボもののクサイセリフを吐きまくり、それは取りも直さず、彼の時間が止まっているという証なのだが、変わろうとする人と変わろうとしない人の食い違いにふたりがこれからも交わることがないのだろうなと思う。美月は椿屋に泊まりに来た錠島と一定の距離を置き、もう一度女優に戻ったらどうかという春夫の提案も今更勝手なことを、と跳ねつける。意地を張って自分の人生を無駄にするなという父親に、父が出奔したせいで(母と医大に通う弟の生活を守るために)椿屋を継いだというリアルをぶつけて黙らせた。このセリフが1番美月の苛立ちに共感できる。滝乃役の大竹しのぶが麻生祐二役の沢田研二の前で「勝手にしやがれ」を歌うというシーンがあった。歌詞の意味を考えるとダブルミーニングのブラックジョークか。さて、いつも大京の事務所が椿屋のセットでの話し合いが主で、ビックプロジェクトとは思えないどころか、うっすら詐欺臭もただようリチャードPのテレビ映画制作だが、暗雲たちこめた様子で来週に続く。もはやオードリー名物、歴史は繰り返す。俺には運がねぇんだ!と暴れる錠島が私には見える…。
●第19週
結果、ジョーは暴れなかった。円のレートが急激にあがり(1ドル300円から250円に)日本での撮影を断念したアメリカ本社の決定を受け止めることができなかったのは春夫の方で、日本での撮影がないならジョーだけでもアメリカに連れて行ってくれという黒田社長の願いすらも断るリチャードを前にみんなよく我慢したなと感心する。日本での撮影費用のことを思ったら俳優ひとりアメリカに連れて行くぐらい安いもんじゃないかと思うが、本社からはその渡航費用すらだせないぐらいのコッパ俳優だと思われていてなんとも切ない。カツドウ屋でもくだをまく晋八にからまれてさらにキレ散らかす杉本、それでも諦観の境地を崩さないジョー。そして例によって例のごとく、ジョーが押せ押せの時には逃げ回り、引けばとたんに追いかけるオードリーこと佐々木美月。こうやってトコトン合わないふたりを見るのももはや恒例行事となっている。ジョーはまたイチから大京の契約俳優となり、夢破れた春夫は、生きて行くことは諦めること、行雲流水などと言って何を諦めても愛子だけ諦めへん、と夫婦の絆を深めながらも、その矢先、映画館でローマの休日を見ながら亡くなってしまう。フラグなしの急死に視聴者も呆然としたが、愛子も寝ついてしまうほどのショックを受ける。そして3年後、佐々木家は相変わらず椿屋の主人を続けている美月と京大医学部を卒業し泌尿器科の研修医をしている梓、パパ亡き後、息子しか残っていないと梓に過干渉ぎみの愛子の3人で変わらぬ暮らしを続けていた。もみじが父親の看病で休む間、晋八が椿屋の男衆としてやってくる。大京はフジTVの単発時代劇の下請けの仕事をとり、監督脚本は杉本英記、主演を幹幸太郎、浪人1錠島尚也、殺陣師、晋八でやろうとするが晋八は椿屋の仕事があるからと殺陣師を断る。本心は杉本に言われた3年前の罵詈雑言を許せず、自分で杉本に絡んでおきながらしち面倒臭い話だし、叶わぬ恋の表現が毎回暑苦しいし、美月の恋の当て馬にもなっていない哀しさからその行動を笑う気にもなれないし、頼むから早めに殺陣師に戻ってほしい。滝乃はふらりと椿屋に戻ってきて、居場所がないとか今の暮らしが退屈だとか椿屋の暮らしが懐かしいとか勝手なことを花尾先生を相手に言ってみたり、夜中にさめざめと泣いたりしている。全体に湿度が高すぎて息苦しい。こちらもギリシャなり神戸なり早めに旅立ってほしい。
●第20週
なんだかドタバタした1週間だった。椿屋に大京が下請けの時代劇に出演するために幹幸太郎が逗留し、美月や晋八の映画への未練を揺さぶり、タイガーウォンこと青葉城虎之助は凱旋帰国し、母、雀蓮と、落ちぶれたりクリキンと対面を果たし、滝乃は相変わらず精神不安定のまま麻生祐二を困らせている。美月の弟、梓は京大泌尿器科の研修医として働いているが、友禅職人のもみじの父親が膀胱癌を患っているのは染料がついた筆を舐めているせいではないかとあたりをつけ、患者に直接染料を調べさせてほしいと言っては断られ、父と跡を継いでいる兄の身を案じ、もみじが梓に染料を提供するも、検査の結果、体内での発癌が認められて、染料の開発が進むまで筆を舐めないで友禅を描くようにと進言しては断られたたりして、3年たっても大部屋女優との恋愛はたいしてすすんでいないようだ。パパが亡くなってから梓命のママは美月に託された染料を梓に渡すのを忘れて梓に怒鳴られダブルでショックを受けている。一過性の健忘なのか認知症なのか「天井が落ちて来る」などと言っているので幻覚が見える系の認知症なのかもしれない。さらに滝乃を訪ね、今更のように春夫と滝乃の関係を聞きたいなどと、何のつもりなのかわからない要求を突きつけ、滝乃と視聴者を盛大に戸惑わせている。全方向にストレスフルなストーリーだが、クリキンの役者としての美学は見事だったし、虎之助が日本で俳優をやる道はないかと幹幸太郎に相談した時にきっぱり「ない」と言って香港に追い返したのはスッキリした。いま、オードリーの物語を牽引しているのは間違いなく佐々木蔵之介だ。
●第21週
長年の疑問を「一回だけ」で納得するのは愛子の甘さかもしれないが、このあたり納得しやすいストーリーを作り出した滝乃の作戦と思わなくもない。物語の牽引どころか幹幸太郎の介入ぶりがすざまじいストーリー展開で、そこまでやるかと半ば呆れながら見守る週の前半。窃盗事件を捏造し美月に犯人を探せと迫り(これはもみじを巻き込んでの狂言)大晦日の椿屋の玄関でのテレビ時代劇の撮影を捩じ込んで隠れ宿的な椿屋の伝統をぶっ潰しお怒りの常連客を発生させ、それまでの殺陣師をいきなりクビにして(これも芝居)なにも悪くない美月に因縁をつけ晋八をクビにするように仕向ける。オードリーの椿屋の主人を続ける気持ちを折り、映画の世界へ戻すのが目的とはいえ、ひとつの旅館をぶっ潰す権利が幹幸太郎にあるのだろうか。損害賠償請求してもいいレベルでは…と思う。年が開け滝乃がヌルっと戻ってきた。椿屋は部屋数が少ない(3部屋だったか…)とはいえ人手があれば済む話ではという問題をやすやすとクリアして美月は自由の身となり再び大京へ。杉本のの下で勉強し監督になりたいという夢をもつ。それにしてもいろいろ既視感がスゴイ。美月はジョーとまた昔と同じような内容で言い争いしている。あの頃と違うのはジョーが未来刑事ダイナーでちょっとばかり売れていることだ。一方、梓と曜子はどうなったのかと思いきや、梓が別の女、晶子を連れてくる急展開。産婦人科医をしている晶子の推しの強さにショックを受け、ママはあんな嫁はイヤだと泣き出す始末。あからさまに愛子を家政婦がわりにする気マンマンで、梓の女を見る目のなさにわろてしまうが、ママと正反対の女が好きなのだけはわかりすぎるほどわかる。大京制作の日中合作映画に乗り気の幹プロ。多額の借金を背負う未来しか見えない、と私の中の雀蓮が。
●第22週
晶子との同居話に、もっと言うと梓との結婚にも乗り気でない愛子とか梓の曜子とちゃんと別れてない問題とか関川の愛子へのプロポーズとか滝乃の体調がすぐれないとか佐々木家もゴタついているが、今週のメインストーリーはジョーと生みの母との別れだった。未来刑事ダイナーの後番組に魔境の剣士ムサシが決定となり、しかもテレビ局側の都合で10月始まりという時間のない中、また主役のジョーが失踪した。なにかというとグズグズ言っていなくなるの何回目ぞ、と思ったが、よく考えたら次の撮影日が決まっているのに失踪したのは初めてだった。血眼で探す美月と晋八、社長はもしもの時のために雀蓮のお告げによりタイガー・ウォン(青葉城虎之助)に代役を頼みに行く。自分を捨てた母親から手紙が届き、病院で最期の時を迎えようとしているとわかったジョーは病院の近くの神戸の港で日雇い労働者として働いていた。子供番組用に書かれたムサシの台本も気に入らないと、相変わらず扱いづらいったらない。日中合作映画にタイガー・ウォンではなく青葉城虎之助の名前で出演したいトラは黒田社長とムサシの代役の件を引き受けるという駆け引きをしつつもジョーが戻ってくるのを信じていて、人間の器の大きさを見せるが、一方、またもジョーの人間の器の小ささを見せつけられる結果となってしまった。死にゆく母親の目の前で手紙やぶっちゃうんだもんねぇ。アレは母親ではなく美月にみせるためのパフォーマンスのような気もする。かまってちゃんがすぎないかと思うが、美月がこんな男が好きと来てるから、結局はお似合いなのだった。ジョーが「美月はおれの女神だ」と言う度にサブイボが立っている。まだ言うだろうな。このカシオミニをかけてもいい。
●第23週
子供向けテレビ番組「魔境の剣士ムサシ」から今度は映画「巌流島異聞〜小次郎と武蔵」へ、と大京制作の作品は武蔵づくし。視聴者が知っている話で、時代劇映えするとはいえ、また?という気がしないでもない。幹幸太郎に小次郎、タイガー・ウォンこと青葉城虎之助が武蔵で幹プロ出資で企画は進む。虎之助の実父クリキンも出演予定だ。小次郎が勝つ話にしろだのトラと部屋を替えてくれだの、トラの後には風呂はいらへんだの幹幸太郎がガママ三昧。社員に怒鳴りつける電話のシーンで幹プロの経営がうまくいってないのが苛立ちになって現れていると察せられるわけだが、滝乃は美月が女将をしていた頃に幸太郎に龍馬をやらせたのと同じ役者魂をくすぐるという手を使い、あんなに嫌っていた芸能界にさらに歩み寄る様子をみせる。その立ち姿から命のともしびが消えかけていると視聴者に匂わせ、どんどん弱って行く姿を連続してみせる大竹しのぶの上手さが光る。やっと少しは気楽に生きていけそうだったのに、と物語の冒頭の傍若無人ぶりからはかけ離れた憐憫の情が湧き上がる。見事な女の一生だった。滝乃の代わりに立派に女将を務められるだけになっている愛子がこれからどうするのか美月よりもそっちの方に興味がある。関川に関してはヤバさが立ちすぎていてアンタッチャブル感がスゴイ。しかし、色恋はめんどくさいけど、いつもなにかとすごくほめてくれる茶飲み友達がいるのはいい。愛子の人生の彩りになる。大型企画がポシャりがちの大京において、腹の座ったジョーがたのもしい。こども茶碗ぐらいの器がうどんの丼ぐらいにはなった。でもジョーの足挫いた芝居にはふいた。美月を椿屋に帰そうとしていると視聴者にはわかりやすかったが、役者でアレはかなりヤバイ(笑)こちらも体の関係なしの付かず離れずの美月との距離感が女性目線からするとありがたい。
●第24週
18年後。関川の堅実な経営手腕で大京は元の本社ビルに戻るまでになった。そして関川は会長に、杉本が社長になったタイミングで悲願の映画を撮るという話になり、美月に宮本武蔵を題材にした映画を撮らないかという。かつてポシャった映画を再びということだが、杉本のオーダーは女流監督の撮る新しい宮本武蔵。美月は女とか男とか関係ない、佐々木美月の宮本武蔵を撮る!と威勢がいい。武蔵役の公開オーディションに、かつての仲間たちや幹幸太郎の息子、早乙女清(佐々木蔵之介の二役)の姿も。突然後ろから斬りかかって反応を見るとかいうマンガみたいなオーディションを経て結局、武蔵はジョーに、小次郎は早乙女清に決まる。美月のキューやらカットやらの声が耳をつんざくうるささで、17歳で46歳を演じるのも大変だとは思うけど、さらに引き出しの少なさを感じてツライ。佐々木蔵之介は二役で清のやんちゃ感を出すのにかなり頑張ってる様子。堺雅人のナゾのキメ顔は昔からなんだなぁとそこもほほえましくみている。しかし、武蔵を撮ると言ってもまだプロットすらできておらず、美月の提案を杉本がダメ出しすると、武蔵がわからなくなった、女の私にはムリ…と言い出すし、剣豪とは言っても人殺しじゃないかとか、かつて美月が「至福の表情」ってなに?と悩みまくった夢死郎を思い出す展開。美月の悩みタイムにゴッドファーザーの劇伴も流れ、杉本が夢死郎はゴッドファーザーと言ってた謎セリフも合わせて思い出すのだった。晋八もまた武蔵ゆかりの地を訪れた美月の前でかつての夢死郎の痛みのある殺陣を見せる。今撮ろうとしている宮本武蔵と必殺仕事人みたいな夢死郎のどこがどうつながるのがまったくわからないが、おそらく「あの頃」を思い出せということか。このメインストーリーにさし挟まれるのが佐々木家の春海はどっちの家の子問題。これもまた歴史が繰り返されており、春海がかつての美月のように父母から離れて祖母の愛子と過ごしていることが大問題になってくる。愛子の独断で2階を増築して二世帯にし梓夫婦を住まわせる強硬策にでて18年。梓と晶子夫婦は仕事に邁進し、子育てを愛子に丸投げしていたが、物理的な面倒が少なくなったタイミングで晶子が娘を取り戻そうとし始める。血が繋がらない滝乃が美月を我が子のように育てていたこととはワケが違うし美月の心配は的ハズレ感が否めない。そう、これはただの嫁姑問題なのだ。自分でやらないくせに姑の孫の育て方が気に入らないという(春海の勉強ができないのが1番気になっているのかもしれない)自分勝手な嫁VS家事と子育てにすべてのアイデンティティを捧げている姑、ファイッ!家族で家をでるという梓に、私にママを押し付けるのか!と怒る美月も参戦し、これまで家族のためにうっとうしいまでに身をささげてきた愛子の老後がこれか…と予想できていたとはいえ暗澹たる気持ちになる。あと、椿屋が笹守に買われていた。やっちゃんが高級料亭のおかみになったわけだけど、ダンナの酒乱どうなったの。料亭だとお酒をださないわけにはいかないし、仕出し屋とは訳が違うのでは、と気を揉んでいる。今更、笹守の話にはならんだろうけど、「心配です…」と私の中のヨワイ先生(@Shrink)が呟いている。
●第25週
杉本にはクビと言われ、剣豪とは言ってもただの人殺しじゃないかとまだ武蔵の悪口しかでてこない美月。そんな美月を役者の女房にならないかと誘う錠島。もうそうした方が…と外野は思うが、ちゃらんぽらんな清に、アンタなんか幹幸太郎の息子やなかったらオーディション通らんかったわ、中山先生に殺陣の練習してもらい!などと喝を入れているうちに再びやる気になる流れとなる。あわてて殺陣師の元に走る清があんな風体で意外と真面目なイイコで笑ってしまう。そして杉本からかつて自分が監督として撮影しようとしていた「巌流島異聞」の台本を参考にしろと手渡す。最大に困っているのが一条下り松と言われる場面で、武蔵が子ども(吉岡の大将)を斬るシーンなのだが、理解できないと延々と悩む。このシーンはこれまで武蔵を撮ってきた監督がみんな悩む部分とのことで、主人公に正しさを求めてるのが問題なんじゃないのかと思ってたら、実は美月は錠島が子どもを斬るところを自分が見たくないという理由で悩んでおり、いきなり映画監督からひとりの女になってしまうその思考に戦慄したのだった。しかし、弱い武蔵を演じろ演じろと錠島にダメ出しを続けているのは、本当は錠島の被っている鎧を剥ぐのが目的で、美月の思う武蔵は錠島尚也そのものなのだ。30年に及ぶふたりの関係の行き着く先は、美月の、役者としての錠島を愛している、というセリフに凝縮されていた。放送日程の1週間のうちに2回プロポーズしたジョー、お疲れ様…。いろいろあったジョーはともかく、杉本がクランクアップ後にいきなり美月にプロポーズしたのがキモくて「キモイ!」と思わず声に出てしまった。撮影所でみかけていた時から可愛い子だなと思っていたとさらにキモさに拍車がかかる。そういえば美月が杉本にお弁当を運んでいた時期があったなとぼんやり思い出すも、愛だか友情だかわからない状態のまま、樹里にもってかれたことがあった。いや、それでもいきなりプロポーズはザワッとなる。さらにふたりの男にプロポーズをされ戻ってきた姉に、なんかあったの色っぽいと言う弟もなかなかキモイ。佐々木家の人々はそういうことをつい口にするタイプの人しかいないらしい。佐々木家は春海の件も落着し、仲良し家族になっている。ふたりの母親に翻弄された美月なりの回答が美月の子ども時代と同じ顔をした春海に語られ、いろいろ成仏した感があった。ラストの試写会(?)のシーン、キャスト勢揃い(亡くなった春夫、滝乃、樹里もいる)の中に脚本を書かれた大石静先生のお姿もあった。ご自身の生い立ちをオードリーに反映していたとのことで、最も大切な作品のひとつなのではないかと想像する。美月の悩みごとがループのように繰り返され、今何週目か、とゲンナリすることもあったが、人生ってそんなもんだよなと今は思っている。この物語の白眉はやはり大竹しのぶ演じる滝乃だった。全く正しくない生き方にもかかわらず、おそろしく説得力があって、死に際にはその一生、お見事でした!と心の中では拍手喝采のスタオベだった。もはや主役と言っても過言ではない。
NHK BS 再放送
NHK連続テレビ小説第63作
(2000年10月〜2001年3月)