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ハイヒールの一人旅のレビュー・感想・評価

ハイヒール(1991年製作の映画)
4.0
TSUTAYA発掘良品よりレンタル。
ペドロ・アルモドバル監督作。

15年振りに再会した母娘の確執と愛情を描いたドラマ。

アルモドバル15本目のレビューは『ハイヒール』。再婚相手の死をきっかけに一人娘を残して単身メキシコに渡ってしまった女優の母親が、15年振りに故郷スペインに戻って来る。既に大人になった娘は生き別れた母親と久方振りの再会を果たすが、娘が結婚した年上の夫はかつての母親の恋人だった…という愛憎渦巻くシリアスな作風の家族ドラマで、アルモドバル作品の永遠のテーマ―母と娘の複雑な親子関係が、とある殺人事件を巡るサスペンス劇と母娘を取り巻く複数の男性(+ゲイ)との関わりを交えて描き出されています。

『秋のソナタ』の引用に象徴される、過去から現在に続く母娘の確執と憎悪、罪と悔悟、贖罪と愛情が重厚なタッチで映し出されていて、終盤のドラマティックな盛り上げからの静謐な着地は哀切に満ちています。根深い確執を抱えた母娘の関係性の変容を軸にした作品でありながら、殺人事件に端を発する犯人推理劇や観客を大胆に騙してみせる映像トリックを挿し込んだ構成が出色であります。

またアルモドバル映画の特長のひとつ―ビビッドな色彩感覚が全編に亘って本領発揮されていて、中でも『マタドール<闘牛士>』のように赤い鞄、赤い手袋、赤いコート、赤いハイヒール…と鮮烈な「赤」のイメージが観客の脳裏に焼き付きます。そして『戦場のメリークリスマス』を皮切りに『ラストエンペラー』『シェルタリング・スカイ』とベルトルッチ監督に認められ当時絶好調だった坂本龍一による劇中曲も味わい深い余韻を残しています。

蛇足)
テレビ局のスタッフ役としてデビュー間もない頃のハビエル・バルデムが少しだけ顔を見せています(出演当時22歳)。お顔の“ごつさ”はこの頃から…。
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