このレビューはネタバレを含みます
ふくだももこ監督の長編映画デビュー作。主人公の橙花が母の三回忌を機に実家へ帰ると、父が「母さんになる」と言い出し、見ず知らずの子持ちの男性と結婚するとも言い出す話。
それを「おかしい」と感じる橙花と、それを受け入れている島の住人たちのギャップが面白いですね。この作品はほのぼのコメディですから、母の格好をしている父が笑えるポイントなわけですが、それを笑うということは「おかしいと思っている」ことの証明でもあります。本当に多様性を重んじる人なら笑えないと思いますが、そこは本作の音楽を担当している本多俊之さんの手腕で、ここ笑うとこですよという雰囲気を出してくれています。言い換えれば、私たちは強制的に橙花の立場に立たされて、物語終盤では考えを改めさせられる展開が作られているのです。すごい!
しかもジェンダーどうこうじゃない“愛”が描かれているのが印象的でした。よくあるジェンダー映画では、ゲイやレズビアン、トランスジェンダーなどが描かれ、それに伴う苦悩や社会の無理解がテーマになっている場合が多いです。一方、本作の父親は母親になろうとしていますし、男性と結婚しようともしていますが、決してゲイでもトランスジェンダーでもありません。妻を失った悲しみのあまり、妻の格好をして近づこうとし、単に和生と利害が一致して一緒にいたいと思っているから結婚する。それだけのことなんです。
ダリアと瀧も付き合うことになります。瀧はトランスジェンダーなのか女装が好きなのか、どっちかわかりませんが、ダリアは一時は「女の子の格好が好き=男性が好き」と思い込み諦めますが、結局はそうではない。ジェンダーなど関係ない。愛は愛です。
劇中で「生きてさえいればいい」と父は言いますが、まさに愛がどうとか結婚がどうとか性別がどうとか、そんなの関係なくて、生きてさえいればなんだっていいのです。
自由に生きてそうな島民たちでしたが、彼らは彼らの悩みがあり、キャラクターも魅力的でした。島の風景も美しかった。