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モリコーネ 映画が恋した音楽家のbirichinaのレビュー・感想・評価

4.5
自分が映画音楽家を志す人間だったら5点を付けていただろう。内容が専門的でついていくのに大変な所もあったが、大勢の映画人や音楽家のインタビューから、モリコーネがどのように偉大な映画音楽家になったか、彼の偉大さはどんなところにあるかが浮かび上がる。さすがトルナトーレ監督! モリコーネがいなければ1960年代から最近までの彼が音楽を担当した傑作は、違う印象の作品になっていたかもしれないと考えると感慨深かった。

トランペット奏者の息子のモリコーネは音楽院で作曲を学ぶエリートたち中では異色の存在だったが、優秀だったので高名な作曲家に師事することができた(卒業試験の作曲は9.5点!←一般的に8点以上はすごく高い評価らしい)。しかし映画音楽の仕事を始めてアカデミックな作曲家の本道からそれていったので、恩師に疎まれ門弟仲間の中でも孤立していく。そんな彼を全面的に支えたのが妻マリア。モリコーネは出来上がった曲をまず妻に聴かせて、妻が気に入ったものを映画監督に提示していたそうだ。個人的に好きな「ニュー・シネマ・パラダイス」「海の上のピアニスト」「1900年」「続・夕陽のガンマン」などがモリコーネの音楽なくしては違う作品になっていて、そのモリコーネは音楽については素人という妻マリアの精神的支えなくしては存在せず…つまりマリアさんなくしてはあの名作の数々は生まれなかった…という運命的なつながりが、自分にとっての感動のツボだった。

●以下、気に入ったエピソードなど個人的なメモ。
・セルジオ・レオーネ(なんと2人は小学校の同級生!)と組んだ「荒野の用心棒」の決闘シーンの曲(トランペットが印象的)について、クリント・イーストウッドが「彼の音楽のおかげで俺が引き立って見えた」と証言していた。
・音楽にコヨーテの遠吠えや口笛などが入り混じる「続・夕陽のガンマン」を見たブルース・スプリングスティーンは「映画館を出てすぐサントラ盤を買いに走った」と言っていた。
・「カニバル」(R・カヴァーニ監督)の曲をスタジオで耳にした「ケマダの戦い」の監督は、その曲が「ケマダ」の海岸の踊りのシーンにぴったりだと思いテープをこっそり持ち出す。(それもすごい!)最終的にモリコーネが似たような曲を提供して一件落着したそう。
・「死刑台のメロディ」で歌われた「勝利への讃歌」は、テーマ曲を録音した後ジョーン・バエズに「もう1曲用意してるんだけど歌詞をつけてくれるかな」と、ほぼ即興的に歌詞をつけてもらった曲だとか。
・「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」の「デボラのテーマ」は実は別の映画のために作ったが降板したために使われなかった曲で、レオーネ監督が気に入ってこの作品で使われることになった。この曲を聴いて、アカデミックな世界の音楽家たちはモリコーネを認めるようになったという。
・「ミッション」では、オーボエとモテット(教会で歌われる合唱曲?)と民族音楽(インディアン)が意図せずに融合して傑作ができたと自負し、周囲もアカデミー賞は確実と思っていたが、アカデミー賞は「ラウンド・ミッドナイト」のハービー・ハンコックへ。がっかりして映画音楽から離れて室内音楽の作曲をしていた。その頃「ニュー・シネマ・パラダイス」の話が来たが一度断っている。プロデューサーが「そう言わず一度台本を読んでみろ」と言ってくれたおかげで、「NCP」の名曲の数々が生まれた。(よかった!ナイス、プロデューサー!)
・「海の上のピアニスト」では脚本執筆と同時進行で音楽を作った。
・2006年のアカデミー賞名誉賞のプレゼンターがC・イーストウッドだったのがよかった。

●モリコーネのすごいところ
・台本を見るだけで、シーンや登場人物の心情を音楽として表現できた。
・映画音楽をBGM的なものから作品を構成する要素の1つに変えた。
・音楽というくくりの中で映画音楽の地位は低かったが、それを映画音楽=現代音楽という認識に変えた。
・こんなに偉大な人なのに証言者も言うように誠実で偉ぶっていない人柄がすばらしい!

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