ちい

ロストケアのちいのネタバレレビュー・内容・結末

ロストケア(2023年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

高齢化社会に問いかける一作。長澤まさみと松山ケンイチのそれぞれの“正義“の対立が素晴らしかった。「社会の穴」って、介護問題だけじゃない。万引きを繰り返して刑務所で安定した生活を手に入れようとしていたおばさんも、憧れの存在の斯波さんが殺人犯だったことにがっかりして水商売に走っている由紀ちゃんにも、孤独死したまま2ヶ月間発見されなかった秀美の父にも必要だし、必要だった。どこに制度の抜け目があるのか、穴に落ちてみないとわからないことが、社会の穴の恐ろしさだと思った。

この映画は家族の物語でもある。どんなに介護が過酷でも、昔のことを思い出してくれる一瞬もある。子に介護の負担を強いることのないように、自ら施設に入る秀美の母(藤田弓子)のような人や、嘱託殺人をほのめかす斯波の父(柄本明)のような人もいる。どんなに認知症が進んでも、彼らが「親」であることには変わりないと、折り鶴の中に書かれた父から子へのメッセージや、子の頭を優しく撫でる母の手が教えてくれた。

●STORY
訪問介護士として働く斯波(松山ケンイチ)は、観察力と手厚いサポートで客からも同僚からも信頼が厚い。ある日、所長の団がサービス利用者の自宅で転落死している事件が発生し、梅田賢太郎さんの遺体も検死に回される。自然死ではなく、ニコチンによる殺人が疑われたことを機に、過去3年の死亡者を検証すると、死亡時間帯が不自然に重なっており、斬波が捜査線上に浮上する。

●CHARACTER
⚪︎大友秀美(長澤まさみ)
「人には見えるものと見えないものがあるんじゃなくて、見たいものと見たくないものがあるんだね」

私も見たいものや綺麗ごとしか見てきないような気がしてぎくっとした。

「他人の人生に決着をつける権利はない」

実父の嘱託殺人はまだしも、「バレなかったから」という理由で41人の殺人を繰り返した斯波は、やはり問題だと思う。

⚪︎斬波宗典(松山ケンイチ)
「この社会には、穴が開いている。落ちたら這い上がれない」

斬波がサービス利用者に渡していた折り鶴は、斬波が最初に殺した父と自分の親子の証を感じさせてくれるアイテムだったことが、大友検事によって明かされる構成だったのが良かった。

⚪︎羽村洋子(坂井真紀)
「きっと誰にも迷惑をかけないで生きていける人なんていないんじゃないかな」

⚪︎梅田美絵(戸田菜穂)
「人殺し!」
側から見て過酷な介護がしんどそうでも、本人にとっては生きていてくれることが大切な場合もある。斯波の行為は、梅田さん親子にとっては、ただの殺人だったと突きつける言葉だった。


●演出
演出が綺麗だったのが印象的。法というシステムに基づく「正義」を信じる検事と、社会が救ってくれない人を代わりに救済したという個人の心情に基づく「正義」をかざす殺人犯。鏡や反射をうまく使い、境界線を映し出しているのが興味深かった。

●FLEXOUND
初体験。ただヒューマンドラマだったせいか、振動も音響も少なくていらなかったかな、、、。体験でやってたアリエルはすごく良さげだったので、作品によるかと。
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