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窓辺にてのspoornerizmのレビュー・感想・評価

窓辺にて(2022年製作の映画)
4.1
面白かった。
映画館を出て元気になっている自分がいた。

帰り道、“あれはこういう意味なのかな“、とか、主人公の気持ちを思い描いてみたり、そういう余韻が長く続く感じも久しぶりだった。

期待してなかったからな。今泉監督の映画は2本観てちょっと苦手だなってあったしな。

この物語は、そもそも、そこかしこにクスってなる所がある。それも極めて個人的な“おかしみ“で。何が、どうおかしいのか説明できない程度にくすぐられる感じが心地いいな。

なんだろうなー。日々、“これ、どうなんだろう?“と考えているけど、情報の渦に流されてしまう、しかも、SNSで送られる誰かの声にどんどん流されてしまう自分の考えを、拾って、一つずつ見せてくれてるような感じがあって。それに意味づけや、良い悪いの評価をしたりしないで。
そんな風な面もあれば、「言葉にすると終わってしまうから」と登場人物に語らせたりして。言葉にするもの、言葉に置き換えないもの、いずれの面でも、“そうそう、それなぁ、わかる。そうなんだよなー“みたいのが、沢山あった。

そういう流れの中で、
編集者の奥さんと付き合っている若い作家は、後半、“彼女“を書いたことで“過去になってしまった“と語った。それが、すごく面白いな、って。“過去になってしまった“って、わかるような気がしたの。言葉に置き換えちゃったら、感情がある所に落ち着いちゃう種類のものだったんだな、とか、いや、そうじゃないのかな、って。わからないものもある、そういうのが観ていて、自分の感情とか考え方を洗濯してもらっているような、そんな感覚がありました。

物語の登場人物の色々のストーリー展開、夫婦の対比とか絡ませ方も面白いんだけど、その中で起こる感情の機微と、それを言葉にして語らせることで、登場人物を向き合わせて、その言葉の色々に観客が心を動かす。手法も上手いし練られているのに、そう感じさせない軽快さがあって。

俳優さんは、有名どころだらけじゃない感じが、とてもとても好ましい。

中村ゆりさん、上手いなぁ。安定の演技の志田未来さん。身体のどこかを負傷して休業中の何かのスポーツのプロ選手を演じた若い方、どこかで観たと思うんだけど、声が良いよね。そしてチャラい感じがリアリティがあって良かったな。そう、そして、松金よねこさん。吾郎ちゃんも中村ゆりさん、いずれが演じた役の親なんかい??? てなったけど、(ちょっと無理がないか?、、)往年の女優さんがサラっと母親役で出てくるのはいいよね。

稲垣吾郎さんは、うーん。そうだな、パフェのシーン、それと年季の入った喫茶店の“窓辺“の席がよく似合う人。(ゴメン、吾郎ちゃんは好きなのだけど、他の俳優さんだったら、どう演じたかなー、ってちょっと思ったのは正直なところ。その感情の読み取れなさは、役どころ?なの? それとも、演技が不十分なのかなって思ったりしてしまった。難しい役だもんね。)

「パチンコほど贅沢なものはない」って話が出てきたが、その類で、わたし個人が最近考えているのは、“わからないことをわからないままにしておくこと“は、結構な「贅沢」であるってこと。

で、吾郎さん演じる主人公は、本当に、奥さんが浮気していることに気付いて、微塵もショックを受けなかったのだろうか。
それが、想像もつかないし、わからない。今回はわからないままにしておく。

あ、ただ、しかし、
主人公が、妻と向き合うシーンは、この映画の見せ所でしょう。
「自分が誰かの役に立てているんだろうか」
それ、そう、そう考えるようになるよね。若いうちはそんな風に考えなかったと思うけど。そんな考えのもとに、編集者としての彼女は、旦那も、彼氏も、いずれの作家に対して役に立ててるんだろうかって、自分を追い詰めてる感じとか、リアルで良かったし、そう話す奥さんの本当は誰が好きか気持ちが、ちょっとわかったりして。

で、そのあたりから以降、主人公は、「自分はどうしたいの?」を相手に聞いていくのもさ。観客のこっちに聴かれてるようで
、なかなかね。これがね。

いろーんな感情をよくまとめた脚本だなぁと思った。演じる人は大変そうだなと思う。今泉さんという監督が伝えたい事というのは、ふんわりしたストーリーの中に、明確にあって、でも「それ」と限定した一つの事ではない感じがとても見どころある映画でした。
それと “今泉監督のブラックアウト“とでも呼んでいいのかな、画面が真っ暗になるのが3回あったな。
個性のある監督だよね。
個性のある監督といえば、その風貌は、この物語に出てきた、若手の作家に似てる気がしました。彼に色々語らせてること、あったんじゃないかな、、なんて思ったり、ね。
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