依羅

夜明けのすべての依羅のレビュー・感想・評価

夜明けのすべて(2024年製作の映画)
5.0
〜パニック障がい当事者から観て〜

映画ってのは俺の場合、だいたいは他人事だからヘラヘラして観られる場合が多い。
というか、そのようにして観たいから、当事者意識が湧きづらい洋画を中心に観ている節がある。

でも最近、邦画も観るようになってその良さに気付いてきた。

今作、劇場で予告編を観た時から気になっていた。
さらに、先に観ていた妻からは、
「あなたにもこのような居場所が見つかるとよいね」
「あなたの病気のこと、ちゃんと理解できていなかったかも」
だなんて、嬉しいというか、俺のことを想って観て、感想を共有してくれて。とても温かい気持ちになった。


実際に鑑賞して、久しぶりだったなぁ、ずっと涙ぐんでしまっていたのは。

パニック障がいという病一つをとっても、その症状は人それぞれ、まさしく。
山添くんは劇中の通りだし、俺の場合は、街中や人混み、オフィス環境下にいると動悸が激しくなり、汗が滲み、ここから早く逃げ出したいという衝動に駆られる。
だから毎日、アルプラゾラムを服用して、不安発作が出ないように、心を落ち着けるように努めている。

他人事ではなかった。
バリバリの仕事人間から、ある日突然パニック障がいになってしまった苦しみ。
挫折、心が折れる感覚、ここは自分の居場所ではない、まだやれるという思い。

あのような優しい職場、"配慮がある"とはまた違う、「まぁそういう人もいるよね」くらいで普通に仕事をさせてもらえる環境。
俺から見ると、そんな都合の良い場所があるかよ、と思ってしまうけれど、もしあるのならどれほど救いになるだろうか。


PMS(PMDD)の重い藤沢さんの姿、妻と重なって、これもまた他人事ではなかった。
ピルを服用できないケースがあること、恥ずかしながら知らなかった。

当事者にしか分からんこと、当事者であっても知らないこと、たくさんのケースがある。


そんな2人の親愛を、優しく優しく描いた素晴らしい作品。


「3回に1回くらいなら助けられるかも」
山添くんの言葉に込められた深い優しさに、ただただハンカチで目と口を抑えることしか出来なかったよ。
俺は、社会のお荷物のような俺でも、存在していてよいんだ。そう思わせてくれた。

"夜明け前が一番暗い"

俺はまだ夜明け前の時期にいるのかもしれない。それでも必ず、朝はやって来る。光はある。
希望を忘れず、諦めず、与えられた生を一歩一歩、踏みしめて生きていきたい。


俺には俺の居場所がある、役割があると信じて。見つけられるように努めていこう。
依羅

依羅