Sugi

PERFECT DAYSのSugiのレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
4.7
素晴らしい作品。
平山の何でもない生活に憧れさえ抱く程、日々の一瞬の「揺らぎ」に気が付かなくなってしまってるのかもしれないと、思い知らせてくれる。
同窓会のような人生の特別な瞬間は一つの「点」でしかなく、殆どの人間は「普通の日々」が主役である。特別な一瞬に意識が囚われすぎると、普通の日々の中に潜む感情の揺らぎや気付き、その差を見落としてしまう。
資本主義、大量消費が当たり前の世の中で「完璧な日々」と聞いて、平山のような生活を思い浮かべる人間は少数派だろう。ただ確実に彼が彼のあるがままに生きるこの日々は「Perfect Days」と言えよう。

朝は箒を掃く音で目覚め、布団を部屋の隅へ片し、植物に霧吹きで水をやる。一階へ降りて歯を磨き、髭も整える。外へ出たら空を眺め、曇り空でも嬉しそうににこっと微笑む。チカチカと電気の消えかかった古い自販機で缶コーヒーを買い、古い軽に乗り込んでトイレ清掃の仕事へ向かう。今日はどれにしようか、カセットテープを選ぶ。
渋谷や押上、都内のオシャレな公衆トイレを丁寧に清掃する。顔も知らない誰かと数日置きに○×ゲームもやる。そんなちっぽけな喜びでも表情が緩み、嬉しくなる。昼は公園でサンドイッチと牛乳を頬張りながら、オリンパスのフィルムカメラで木漏れ日を撮影する。
仕事終わりの夕方、オープンと同時に銭湯で一番風呂を浴び、常連の改札直結の地下居酒屋で一杯飲みながら夕飯を食べる。自転車に乗り、家に帰る。
電気を消し、読みかけの文庫本を開き、うつ伏せになりながら読書灯をつける。眠くなったら本を閉じ、灯りを消して今日あった出来事を思い微睡みながら眠る。

ルーティーンの生活なのに、彼の日々は観ていて飽きない。それは、いつもの時間の中に、いつもと違う瞬間や感情が見られるから。それは自分の生活の中にも必ずあるはずである。
日々の忙しない感情の山に埋もれていた、その一瞬にしか出会えない瞬きを尊ぶことのできる、そんな平山のような人間になりたい。
(あくまで平山になりたいわけではない)
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