たらお

異人たちのたらおのレビュー・感想・評価

異人たち(2023年製作の映画)
4.0
異人たちとの交流の中で自分の傷と向き合うお話。
一種のカウンセリングと言えばそれまでかもしれませんがね。
原作未読。オリジナル版とラジオドラマ版は観賞済みですが、個人的にこのリメイク版が一番好きです。
主人公のアダムが自身の弱さ、過去のトラウマと立ち向かいながら大切な人の手を掴む展開は響きましたよ。
「喪失から来る自暴自棄」って台詞には個人的に頷いてしまったり。

L"G"BT要素を加えてアレンジされた本作ですが、同性愛者ならではの葛藤と不安といった心理が物語と絡んでオリジナルとまた違った味わいとなっています。
作中でクィアという表現に関してや、親へのカミングアウトなどもありその辺りを濁さず描きつつ「異人たちとの夏」のリメイクとして仕上げたのは賞賛しかないですね。
アダムとハリーの二人が肌を重ねるシーンも安易に同性愛を美化することなくそのまま描いている感じがありましたね。
二人が身体も心も繋がっていく様子が伝わりました。
アダムがお風呂に入るシーンでハリーがアダムの手を握ったり、頭を撫でているシーンが好きです。一夜の戯れじゃなくて、特別な人って意識しているんだな……って思えたので。

オリジナル版同様、家族愛がひとつのテーマですが、やはり帰る場所があるっていいですよね。
アダムが家族に対しては子供の顔を見せて甘えている姿にちょっと羨ましくなりました。
最後に思い出の場所に行くのもオリジナル通りですが、わかっていてもラストの展開にじんわりと来ますね。
ラストシーンに関してはハリーについて気になる部分がありますが、アダムにとっての悪夢が終わったと思えばそれでいいかと納得しておきます。
(何度か夢オチみたいな演出があったのは子供の頃から悪夢に怯えていた、ひとりが怖かったって解釈ができるので)
アダムが自身のインナーチャイルドを癒やし、もう怖い夢を見なくなるまでの物語として心に響いた一作でした。
たらお

たらお