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紅の豚のaのレビュー・感想・評価

紅の豚(1992年製作の映画)
3.0
仲間が天国か地獄か、雲のような物に取り込まれていく中で、自分は共にできずただそれを見続ける事しかできなかった。状況が状況とは言え、自分が仲間を「見捨てた」罪を背負いながら生き続けなければならなかったため、ポルコは国や社会から距離を置いたのだろう。
あの時代の国の在り方に、盲目的になれなかった人々はどんなに苦悩しただろうか。国に従った結果、目が覚めてしまったと思うと、遣る瀬ない気持ちになる。
「ファシストになるより豚の方がマシさ」と口にするまで何を経験して、何を見て、何を考えたのか、より詳細に語ってほしくなるが、そう多くを語らない所がポルコの大きな魅力なんだろう。


この映画は、90年代に「中年のための映画」として作られた、1920年頃の物語だと分かってはいるが、ここまで「男性が思い描く夢の世界」だと、ファンタジーだとしても、引いてしまった。

まず、17歳の少女が36歳の男性に恋をして、キスをするというのは、いかがなものだろうか。
いくらポルコが「いい男」だったとしても、キスをされて赤くなってる場合ではない。いい男だからこそ、外の世界を初めて知った少女から頬にキスをされた時点で、憧れと恋心の違いを教えてあげるべきだった。

また、この映画ではジーナやフィオが空賊を丸め込むように、「女の手のひらで転がされる男達」という描写が多かったが、宮崎監督だとしたら、もっとその本質を分かりやすい形で描いていただきたかったな、と思ってしまった。
ジーナもフィオも男を従わせているようで、男にとって都合よく作られた「男のため世界」でトロフィーとして愛でられていただけだ。
宮崎監督には「男のための世界でトロフィーとして振り回される女達」という構造を抽象的ではなく、より具体的に描いていただきたかったが、この映画は「中年のための映画」なので、それはいらない描写だったんだろうな。


完成から何年経っても美しいと感じる映像と、2000年代以降のジブリとは少し異なる空気感を楽しめる作品だった。

「さらばアドリア海の自由と放埓の日々よ」
「それバイロンかい?」
なんて、どれほど魅力的な会話だろうか。人生で一度は経験してみたいものだ。
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