依羅

戦場のメリークリスマスの依羅のレビュー・感想・評価

戦場のメリークリスマス(1983年製作の映画)
5.0
既に各所で述べられていることだけど、一切の戦闘場面(一部、兵士同士の衝突を除く)が描かれていないことに驚いた。
とはいえ、ジャワの俘虜収容所における日本軍の横暴や、まるで機能していない俘虜への裁判など、ここもまた一つの戦場であることは痛いほど伝わってくる。

坂本龍一演じるヨノイ大尉のほぼ一貫した冷徹さと、あまりに美しいその容姿が相まって、正直目が釘付けになりました。

そんな彼が、劇中で唯一その心を乱されたデヴィッド・ボウイ演じるセリアズとの関係性。性愛なのか、魂の共鳴なのか、何がヨノイをあそこまで乱すことになったのかが不明瞭なまま終わる、それが本作における深い余韻の理由なのかな。
とっても味わい深かった。

セリアズからヨノイへのキス。単に仲間を守るための"賭けの一手"だったかもしれないけれど、何かそれ以上の意味を感じずにはいられなかった。ヨノイが腰を抜かすほど驚くのも当然だと思う。

生き埋めにされたセリアズの髪を一房切り取って包み、敬礼するヨノイの姿から、二人の間に確かなリスペクトが生まれていたことは明白じゃないかな。
個人的には、二人の関係性をあえて定義づけるなら"友愛"かな、と思う。
ボウイの美しいオッドアイが印象的だった。


一方で、ビートたけし演じるハラと、ロレンス。
どこか良識はありそうなものの、叩き上げの軍人然たる粗暴なハラは、ビートたけしにしか演じられなかったんじゃないかな。
ある種、怪演と言っても過言ではなかったかもしれない。

この二人については、より分かりやすく友情が描かれていたように思われる。
ロレンスはだいぶ酷い目に遭っていたけれど、二人の描写には少し笑顔になってしまう側面もあり、やはり、ビートたけしの成せる技なのかなと。

ラスト、
「メリークリスマス!メリークリスマス、ミスター・ロレンス」
翌日に処刑を控えているとは思えない、屈託のない笑顔でそう呼びかけるハラの表情、サイコーだった。


全体を通して、個人的には何とも哀しいストーリーだったと思うけれど、二組の男たちから成る複雑な関係性の丁寧な描写と、坂本龍一の『Merry Christmas Mr. Lawrence』によって、非常に後味の良い"読後感"に満たされた。

※読後感に代わるカッコいい表現欲しいね笑

この余韻に浸れたこと、この映画に出会えたこと。本当に幸せだなぁ、と感じました。
依羅

依羅