でんき

機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイのでんきのレビュー・感想・評価

4.1
意外と良かった。三部作の第一章(なぜかプロモーション等の最初期にちょろっとアナウンスしたきり)で90分以上のランニングタイムでΞガンダム(クスィーガンダム)は出たと思ったらすぐ終わる、まぁ想定の範囲内の内容なんだけど静かでスリリングな物語に惹き付けられた。
まずこの作品は主人公がテロリストで、劇中では民間人も巻き込むような破壊活動を行っているのだが、ちゃんと暴力による急ぎすぎた改革へのアンチテーゼが随所に散りばめられていることに安心した。今を精一杯生きる者には遥か未来よりもすぐそこにある毎日が大事だし、武力を持たぬ者は戦場では無力なのだ。
話の展開は、ケネス・グレッグがギギ・アンダルシアの言葉を聞いてハサウェイ・ノアがマフティー・ナビーユ・エリン(世間を賑わせているテロ組織マフティーの首謀者)だと感づくって、冷静になればかなりご都合主義的な作劇なのだが、人間関係は恋愛映画っぽくもあり洒落ててなかなか好印象だ。それがハサウェイの青春の様相を呈している。
アクションは短いが臨場感たっぷりだ。語るべきは、後半のΞガンダムの初出撃よりも中盤のMSによる都市破壊シークエンスだろう。そこには、これまでの「ガンダム」シリーズで観られたような戦場でのMSの活躍ではなく、突如戦いの渦中に放り込まれたハサウェイとギギの混乱と逃走を描くことに注力している。それは、まるで平成ガメラ3を彷彿とさせるスペクタクルだった。短いシーンでありながら戦場を逃げ惑う二人や市井の人々がよく描けてたと思う。そこではたとえマフティーの首謀者であろうと、MSに乗っていなければ(武器を持っていなければ)、逃げ惑う民間人と何ら変わりないのだ。
以下、個人的にグッと来たポイントを。
・新しい作画で描かれる逆シャアでのシャアの演説シーン(劇中では画像なので動きや台詞はなし)
・度々フラッシュバックする初恋のトラウマ
・Ξガンダム略して「ΞG」
・残留するニュータイプ能力となったアムロ(「ガンダムUC」を観るように)

正直この作品には期待していなかったのだが、蓋を開けてみると、長くはない上映時間を上手く処理したバランスの良い映画になっていた。ストーリーは、安易なテロリズムの肯定にはなっておらず、それどころか不穏なタッチや劇伴がよく世相に合っているように感じられた。しかし反戦メッセージ一辺倒にならず、瑞々しいキャラクターが織り成す人間模様や最新の映像表現によるMS戦が楽しめて、娯楽作品としてのツボも押さえられていた。なによりこのご時世でもガンダム最新作が劇場で楽しめること、それが嬉しいではないか。
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