きゅうりぼーい

ファースト・カウのきゅうりぼーいのレビュー・感想・評価

ファースト・カウ(2019年製作の映画)
4.1

罪を混ぜ合わせた魅惑の味に
終わりの予感が付き纏う。

生存競争の檻の中。
奪い奪われ、運ばれていく生命の終着点。

鳥には巣を
蜘蛛には網を
人には友情を 

期せずして出会い、成功を夢見た2人が
共に暮らした時間の中で芽生えし絆。

帰る場所(友情)が、還る場所へ。

その〝静〟かなる美しいラストに
得も言われぬ感〝動〟を自覚する私がいた。

時代の片隅の、誰も語らないであろう小さき者たちの小さな物語。
たとえ劇的とは言えなくても、命が運ばれるその道の過程にはきっと誰かの心を揺さぶるドラマが眠っている。

『ウェンディ&ルーシー』を彷彿とさせる少女と犬が埋もれた物語(友情)を掘り起こす。

冒頭から何となく示唆された〝結末〟は今作の物語の「帰る場所」として。
ウェンディ&ルーシーにも描かれたテーマとのリンクを感じさせる演出に早くも心鷲掴みにされていた。

『ミークス・カットオフ』、『OLD JOY』、『リバーオブグラス』と、ケリーライカート監督の過去作の要素をこれでもかと感じさせる本作。
つい最近アマプラで彼女の作品に触れ、まんまと魅了されてしまっていた自分にとっては、その熱量の中で今回の新作が見れたことが何とも嬉しかった。

ケリーライカート作品は常に人間社会の残酷さと、ヒトとしての原点である自然生命への立ち返り=癒しの同居を感じさせる。
人も含めた生物全体を優しく観察するような距離感は、人種や社会的階級を取り払ったフラットな目線で人類を捉え、飾り気のない物語だからこそ画面に広がる生命の一つ一つの動きと登場人物の心の機微が際立つように目に映り、深い余韻を残していく。

「友情」に重きを置いたからこその今作の見事なラストといい、語らずして語る行間と余白の塩梅、映画を描くことにおける所作の美しさ(とでも言うのかな)に毎回惚れ惚れしてしまう。

今年はそんなに新作を見に行けてなかったけど、年末最後にすんばらしいもん見れて幸せでした。
良い映画館納めとなりました。
きゅうりぼーい

きゅうりぼーい