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ウーマン・トーキング 私たちの選択のSugiのレビュー・感想・評価

3.6
舞台はアメリカの外れにあるキリスト教一派の小さな自給自足村。そこでは男尊女卑の価値観が蔓延していて、寝込みを襲い、朝起きると内股にアザや出血が見られる女性が多数現れた。卑劣な連続レイプ事件が発生していたのだ。男らは"悪魔の仕業"だとか"女の自意識過剰な妄想"だと言いのけるが、ある日、現行犯で男が見つかり、その所業の犯罪性が明るみに出る。追放された犯人の保釈金を払いに村を出た男らが不在の2日間、尊厳を奪われた女性たちは「赦す、闘う、村を出る」の3択から、自分たちにとって何が最良の選択なのか、議論を開始するーー。

文盲の女性たちが投票の理論を学習する段階から始まり、徹底的な議論を重ね、間接民主制の原型に辿り着くプロセスが興味深い。穏健派、武闘派、日和見、またその中でも過激派、保守派、等々と、みな微妙に立場やビジョンが異なり、言葉に対する解釈も違う。しかしそこから、聖書の一節の引用や問答を重ね、認識を擦り合わせて行く。多数決に依らず、全員が納得する結論を出す、非暴力的な議論の崇高さを目にすることができる。

宗教や信仰は教典の解釈学である面が十二分にあると思うが、本作は特にその点が色濃く表出していた。
「神に救われるために、我々は男を赦すべきだ」「『赦す』と『許可する』は時に混合する」「強制された赦しは『赦し』ではない」

牧歌的でセピアな映像は、信仰を第一とした理想郷の美しさ、荘厳さを表現するとともに、無機質な畏怖も醸し出す。
生まれながらに有する人間の尊厳を巡り、女性らが徹底的に議論する姿は、あまりに逞しい。一方で、本作には女性の視点しか映されない。そして彼女らも「男性」を一括りにし、年齢という定量的かつ単純な線引きで、彼らが危険か否かを判断する安直(愚かさともいえるかもしれない)な姿が描かれている。
結局のところ、誰しも出自や育ってきた環境により育まれた独自の価値観や偏見、固定観念はどこまで行っても拭い切れないのだろう。
その前提に立ちながらも、解釈を相対化し、客観化し、全員が理解できる一つの答えを出そうとする、その姿勢や視点が重要なのだと思う。
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