未来から来た大人の自分と邂逅した12歳のアダムが、時間を支配しようとする未来の悪と戦う自分&自分のタイムスリップものです。
ストーリー展開がシンプルで登場人物が絞られているため、未来・現在・過去と時間をまたぐことで生じる現状把握の困難さを軽減させているので時間軸が入り乱れても特に混乱せずに観ることができます。
また、メインの流れとしてマヤの支配を阻止するため時間旅行を可能にする技術をなかったことにする、という目的とは別にアダムの家族にかなりの尺を割いているため、実質的にはSFよりヒューマンドラマとしての比率が高いです。
SFとしてとらえるにはタイムスリップの設定が若干ふわっとしていますので、SFアクションを求めて観ると肩透かしをくらうかもしれません。
ですが、ヒューマンドラマとして両親との現在、未来の関係性とアダムが抱く感情が各々交錯する部分がとても丁寧に描写されており、大人アダムは過去の母への態度を悔やみ早くに死んだ父への怒りを、子供アダムはなんとか元気に振る舞おうとする母への怒りと死んだ父への恋しさで意固地になっている。
自分が向き合わなかった自分自身の感情を、違う時を生きるアダム同士が理解し解きほぐしていく様がよかったです。
自分とは言え大人と子供というコンビでは擬似親子や兄弟のような関係性を描かれることが多いのですが、この作品ではアダムはアダムであり何歳であろうと自分自身として描写し、両親と向き合う息子の成長を描いている。その店が不思議なようでいて、非常に好ましい視点だと感じました。
軽快な会話でコメディ調にしつつ、極力陰惨な感情やシーンを排してあるのでラストのキャッチボールから子供アダムと大人アダムのシーンにはグッときました。
大人アダムの後悔の深さを見ていると色々あったことが窺えてちょっと悲しいですね。子供アダムに「今の母親への態度を一生後悔することになる」とも言っていましたし。
タイムスリップものでは未来の不幸を変えるために過去へ飛ぶというあらすじが王道とも言えますが、この作品では止むなく発生した変化以外については起こってしまった事を簡単に変えてはならない、という点がとても好きです。
いかに後悔しようとも、歩んできたそれまでの自分の人生を容易に覆すことが本当に幸せなのか?正しいのか?を問われている気がしました。
誰もが「あの時こうすればよかった」と悔やむからこそタイムスリップは後悔を消し去る夢のような発明に思えますが、その時その瞬間の自分の選択は最悪だったとしても後戻りできないからこそ向き合う価値があるのではないでしょうか。
一番笑ったのは父親と大人アダムが言い合うシーンでお父さんが大人アダムにジャンピングパンチをしたところです。身長差ありますもんね(笑)
とても面白かったです。