このレビューはネタバレを含みます
最新のSFロボットアニメ感がたまらないし、ハサウェイ、ギギ、ケネスの3人の間で起こり続けるすれ違い、相手と噛み合ってないが故に空回る言動、行動、表情…作中で起こる数々のディスコミュニケーションもたまらない。大満足。
台詞メモ
★「だってマフティー・エリンを退治に地球に下りるのでしょ?大佐さんぐらいでいらっしゃいます?どう思われているんです?マフティー・ナビーユ・エリンって」「え…あ、どうして…」「このハウンゼンは余程のコネでもなければ搭乗を許されない特別便よ。しかも今日の客の大半はアデレード会議に向かう連邦政府の閣僚や官僚やそのご家族。仕立てのよいスーツみたいだけど、匂いは消せてない。彼みたいにやらないと。ご同業よ、多分。他人には関心がないか。そんなだから左手の指輪を外すことになったのかなあ」「え…あ、きみ!」「私、ギギ・アンダルシア。きみと言うのはちょっと」「あ…ああ、すまない。ギギさんがどう私を推察したかは聞くまい」「フフフッ…」「笑うなよ。私は感情過多の人間らしいというのは承知しているつもりだが…マフティーは…彼は危険人物だ。地球連邦政府の秩序を乱す者だ」「世間はみんなマフティーが好きみたいですよ?シャア・アズナブルが生き返って人の思う事をしてくれるって」「それは極端だな。マフティーは宣言した。連邦政府の閣僚を暗殺した後で地球環境のために全ての人類は地球から出なければならないと」「例外なく…ね」「そう。例外なく全ての人類がだ。そこが子供染みてる」「子供の論理って正しいことありますよ」「世の中そんなに簡単に動いていない」「そうね、清廉潔白というわけにはいかない。それをどう考えるんですか?」「社会の潤滑油ってところかな」「あなたってパターンしか喋らないんだ」
U.C.0105 人類が、増えすぎた人口のはけ口を宇宙に求めてから、一世紀以上。シャアの反乱から12年。
★「あの子には俺もあの大臣どもと同じってわけか。マフティーにぶっ殺されても文句は言えんな」「何かおかしいことありまして?」「いや。僕は結局、君のようなタイプが好きだと気がついてね。ミス・フラゥワー」「口説きの常套句かしら。辛いですよね、年をとるって」「そうでもないよ。例えば、君のような美人と話していてもポッとあがることもなくなった。これはそれなりに楽しい。ティーンエイジャーの頃は胸がドキドキして苦しくて、それよりはいい」「ドキドキされる方が嬉しいけど」「それは初恋を知った頃の君の理想が残っているからさ。現実が違うということを君はもう知っている」「フフッ、言われてしまったわ」
「連邦政府閣僚、各位に申し上げる。私はマフティー・エリンだ。しかし、今回の作戦は粛清ではない。諸君たちの命と引き換えに地球連邦政府から軍資金を調達する。完了すれば諸君らは解放される。もちろん、不幸にも乗り合わせてしまった上流階級の皆様も御同様だ」
「可愛いですよ。スーダン語、アラブ語、古いアイルランド語の合成…というより酷いメドレー。名前じゃないわ。マフティー・ナビーユ・エリン」
「やっちゃいなよ。そんな偽者なんか」
「つめが甘かったな。失敗したらどうするつもりだったんだ?」「分からない。気がついたら走ってた」「…冗談だと思いたいな」
ハウンゼンから降りるタイミングでようやく意識的にギギに目線を向けるハサウェイ。それに対してはにかむギギ。
「感じなかったんだよな。マフティーの清廉さ…というのかな」「マフティーを肯定しているようにも聞こえるけど」「コイツらオエンベリの片割れかもしれない」「オエンベリって?」「オーストラリア北部の街だ。数万の不穏分子の集結があるってよ。マフティーの軍隊を名乗ってる」
「君、名前を聞いていなかったな。俺はこのガバオの新任司令官、ケネス・スレッグだ」「僕はノア…ハサウェイ・ノアだ」
★「さっきはなんで笑ったんだい?」「笑った?そう?私が?」「なんでマフティーの名を騙る連中だと見抜けたんだ?」「人は体に現れますもの。そうだ、今思いついたんだけど」「え…」「さっき笑ったのはね、マフティー・ナビーユ・エリン、つまり正当な預言者の王という名前を名乗るのはあなた、ハサウェイ・ノアだって分かったってこと」「ははは、僕はご覧の通りごく普通の青年だよ」「正直ね。そういうの好きよ」「〈この子、嘘が分かるんだ…〉こういう言い方も嫌いだろうけど」「言ってみて」「なんで君はそう思ったのかなってね」「ハウンゼンに乗れた、それにしては若すぎる。何故あんな風に戦えたか。十分よ」「なんでさ」「人って自分のことになると馬鹿になるって本当ね」「教えてくれ」「そうでしょ?マフティーの名前を利用する連中に出会って、カッとしてやっちゃったのよ」
★「こんなこと他の人には喋らないよ。嫌われるのイヤだもの。本人ならいいでしょ。とてもスリリングだし楽しいわ」「楽しいか。だけど、言葉で人を殺すことができるということは覚えておいてほしいな。これは比喩ではないよ」「そんな、そんなことは絶対にイヤだ!私…」「ギギ・アンダルシア…」「私、そういうんじゃないよ。本当だよ」「分かるよ。しかし、事実というのは注意深くゆったりと進行するものさ」「そうだね…それ最近分かるようになった」「そうか、辛いんだ?」「バカ…」「ここでの会話は忘れよう」「忘れないよ。あなただってそうじゃないか…」
★「何が気になるの?」「危険になるのはもっと嫌だから喋らない」
★「踊りに行こ!ハサウェイ」「僕はいいよ」
「マフティーのやり方、正しくないよ」「他のやり方があるならば教えてほしいってマフティーは聞くよ」「あるよ」「なんだい」「絶対に間違わない独裁政権の樹立よ。…おかしい?」「そりゃね。しかし、それができる人間がいるとすれば、それは神様だよ」「じゃあ、あなたが神になればいい」「そんな人が出てくる頃は、人間全体が神になっているよ」「それがニュータイプってこと?」「そんなのはいないよ。学校で教えられたろ」「ええ、しつこいくらいに」
「敵が勘づいている気配はないが、あのギギという子…この事態はどう考えたらいいんだ」
「失礼ね!」「よくそう言える。夫婦でもないし同棲をOKしたわけじゃない。そうであったにしても、どこ構わず裸でいる女は嫌いだな。…図星かい?引っ掛けているのか?」
「ああいう女なのか?軽率だったか…そうだよな。クェス・パラヤと同じか…」
「オエンベリのことは?」「それ本当なんです。マフティーの基地がオーストラリア大陸にあるって噂を信じた連中が集まっているんです」「クワックサルバーがやっていることなのか?」「いえ、将軍は喜んでいますが、我々は接触していません」「数は?」「3万ぐらいだという話です」「凄いな。我々の運動の成果とも言えるが。それで?キンバレーが出たんだって?」「昨日です。主力部隊が出撃しました」「お陰でこちらは動きやすくなっています」「ああ。しかし、今度きた司令は厄介だぞ」「分かっています」「新型のモビルスーツも新任司令の力でしょ」「新型?」「テストしているそうです」
★「僕にとってのダミーになるのか、連邦側のスパイになるか、まだ分からない」「どういうことです?」「敵にするには危険な少女だとしか言えない。そう…やはり、目眩しの攻撃はやってくれた方がいいな」「危険ですよ」「僕の部屋は32階だ。もっと上をやってくれればいい」
★「なんでマフティーはハンターを叩かねえんですかねえ」「本当だね。連中こそ掃除しなければならないよね」「学がありすぎんですよ。最後はみんなで宇宙に出ようってんでしょ?あれ、分からねえんだよなあ。ダバオってそんなに環境汚染されてねえでしょ?」「でも、緑は少なくなって魚だって獲れないだろ?」「島のみんなぐらい食っていけますよ」「マフティーは1000年先のことを言ってるようだけど?」「暇なんだねえ。その人さあ。暮らしってそんな先考えてる暇はないやねえ」「…暇?」「でしょうが。地球居住許可証を手に入れるんで偉い人に注ぎ込む金のことを考えたら明後日のことなんか考えられないねえ」「明後日のことか…」
「私を放り出して散歩したから食事の相手に来てもらったのよ。これから行くの。大佐、忙しいのに優しいんだから」「同室とはやるじゃねえか」「どこに行くんだ?」「教えないね」「え?」「お前は今夜一緒なんだろ?その前にいただいちまうから」「どうぞ。構わないさ」「知らねえぞ」
「前任者のキンバレーには呆れている」「オエンベリってところに出撃してるって話?」「俺に当てつけているのさ。本来、俺の就任は3日後だった。奴はそれまでに戦果をあげて宇宙に帰るつもりなのさ」「ふーん、色々あるんだな」「平民の出はこうさ。いい父親が欲しかったよ」「父親がプレッシャーになることもあるさ」「そうかい」「お待ちどう様。大佐、これお願いできます?」
★「分かっているさ。こんなやり方なんか…じゃあ教えてくれよ。この仕組みの深さを破壊する方法を。人類全部が地球に住むことはできないんだ。でなければ、シャアが起こした反乱も、あの時死んでいった人たちも慰められない。例外規定がある限り、人は不正をするんだ」
「キンバレーのバカどものことだ。出てくるのに15分はかかるんじゃないの」「新しい指揮官が赴任したっていうぜ」「それに、新型もあるって話だ。舐めるなよ、ガウマン」「昨日の今朝でできるかい。同じようなものさ。ダバオに7人からの閣僚がオネンネしてるってのがアホなんだよ」
★「巻き添えの方々の霊には哀悼の意を表する。勘弁してくれ」
AM 3:52
★「ギギ、空襲だ!起きて!」「なに?」「靴を履いて。ここも狙われる」「なんで?」「連邦政府の偉い人が泊まっているだろ!」「マフティーなの?」「知らないよ。市街地で空襲だなんて」「マフティー・エリンってあなたでしょうに」「マフティーは組織だよ。一人であるわけがないだろ」「嘘」
「大丈夫。乗ろ」
「どうして私に聞いたの」「君の勘に賭けたのさ」「それならさっきのゴチャゴチャした話をスッキリさせてよ」
「ハサウェイ!逃げていろよ…坊やちゃん」
★「やっぱり怖いことするよ、あなた」「音、聞こえなかったか?爆撃の」「聞こえたかもしれない」
「おいていくの?」「え…まさか、そんなこと」
★「気に入らないね…アンタの弱点が出たみたいな感じがするよ」
★〈この女のせいだ…俺は、また全てをダメにするつもりか!こんなの捨てて、向こうに走ってしまえばいい。それだけのことだ〉
「酷い…酷いよ、こんなの。怖い…」「ああ、そうだ。本当に酷い」
★「大佐!」「ん?ギギ!ハサウェイも!」
★「大佐、怖かった!怖かったよ!」
「今度もあれならハサウェイ・ノアにペーネロペーを任せるからな」「はっ!」「テストパイロットとしてはずば抜けて優秀な男は使えんな」「でも、いい顔をしているよ。あれは昔の俺だものな」「あ?」「いや、軍のモビルスーツを盗んだ時は僕だって自信過剰になっていたんだって思い出したのさ」
ハサウェイの姿を見て隣の座席を叩くギギ。唇に目がいってしまうハサウェイ「ん、飲む?」「え…ああ〈別のコップかと思った〉」
欠伸をした後にハサウェイの肩に寄りかかるギギ「怖かったね」
★「そうか、あのキルケーね。獰猛な動物を大人しくさせるキルケーの魔法。太陽神ヘイリオスの娘」「そうだ、女神の名前さ。ギギ、君には獰猛な男性を大人しくさせる力があるようだしね」「え、その女神って…」「そう、君は特別な存在だよ」「ギギ、今夜俺と付き合えるよな」「この非常時に?」「つまりだ、ギギは幸運の女神なんだな。でさ、俺と寝てくれればキルケー部隊はまさに真実のキルケーになる」「大佐、嫌いだな。そういう言い方」「おっと、こっちにもギギを口説きたい男がいるらしい」
★「ほうれ見ろ。お前はまだまだ子供なんだよ」「だからって大佐のような大人の慣れすぎた言い方も嫌いです」「知りませんよ」「お前が煮え切らないからだろ」「大佐の言い方も露骨すぎます」「しかしお前、変なところで奥手だよな。昔、こっぴどい失恋でもしたって奴か?」「じゃあ、調査局が来るまでは寝ます」「そうするといい。こっちはマフティーのお陰で当分寝ることもできん。これまで閣僚が18人も殺されてるんだからな。どうした?」「いや、いくら高い理想を掲げてもそんなに人を殺してたら、いつかはマフティーが生贄になるなって」「そうさ、俺が奴の首をはねてくれる」
★「しかし、マフティーのいるこの空域に入るのになんであんな数の閣僚が乗ってたんですか?昨夜だってあんな目立つホテルに…」「知りませんね。私もこんなへき地勤務ですから宇宙のことは。ひとつ言えるのは今後もマフティーを名乗る輩はあちこちに出てくるだろうということです。それはもう、本物だろうが偽物だろうが関係ない。ま、彼の戦術はテロですから。最終的には支持されませんよ」
「ギギに挨拶は?」「会えば未練が湧きます。よろしく言ってください」「あの子、どこに落ち着くかしれんが」「分からないんですか?」「怪しいんだよ。あの子の申告している住所は無人のアパートだった」
〈意外と口は堅いのか?いや、今この時間にケネスに全てを喋っているかもしれないんだ〉
★「ハウンゼンでできちまった妙な人間関係からは脱出したということさ」「あの人たち、マフティー本人と一緒だったなんて誰も想像しなかったんだろ?」「いや、ケネスはきっと気づくな」「え?」「たとえギギが何も話さなかったとしてもね」
「作戦が一段落したら香港に送ってやる。それまでのコテージを確保したよ」「ご親切に。それとも、ご自分の監視下に置いておかないと落ち着きませんか?」「うん。調べたんだがね、ハウンゼンにはバウンデンウッデンの紹介で申し込んだそうだな。あの一族の者なのか?」「まさか」「それではなんでハウンゼンに乗れた?」「バウンデンウッデン伯爵と親しい関係だからです。そう聞けば全てが納得できるでしょうし、私のためにコテージを調達したことがバカバカしくなる」「いやいや、伯爵は80歳を超えていらっしゃるはずだが」「そうですよ。ご健康な方でいらっしゃいますけれど、お寂しい方でもいらっしゃいます」「香港の君のアパートは無人だった」「伯爵に買っていただいて初めて見に行くんですもの」「そういうことか…」「私の本当の姿は薄汚いでしょ?すぐ出ますから」
★「いや、待ってくれ。いてくれていいんだ。君が勝利の女神だという勘はあるんだ」「こじつけだわ」「戦場にいる人間は験を担ぐんだよ」「そうかなあ。でもハサウェイは私を避けていたけど」「アイツは軍人になりきれなかった人間だからな。それで…ギギ、いまなんて言った!」「え?」「君はハサウェイから何か聞いているな。いや、ハサウェイに何を感じていた!」
「やっと思い出したよ。ハサウェイ・ノアと会った時のことをな」「有名人だな。ブライト・ノアの息子だ」「ハサウェイはマフティーと深い関係にある。どうだ?」「ははっ、マフティーさ。マフティー・エリンそのものを演じてるんだ」「そのものだ?それならそれで黒幕がいるはずだ。ソイツは誰だ!言いたくないならお前をマフティーに仕立てあげて処刑場に送ってやってもいいんだぜ?」「本当に知らねえよ。ただし、噂なら聞いたことがあるぜ。マフティーはシャア・アズナブルの幽霊なんじゃないかってな」「まあいい。お前が話さなかったらその分俺の楽しみも増えるってもんだ」
★「ペネロペーだ。レーン・エイム中尉だ。ケネス大佐がね、君を人質に使えと言うのだが…つまり、負けそうになったら盾にしろと」「テメェら汚ねえぞ!」「そうは思わないな。マフティーの無差別攻撃テロに比べたら人命の損傷率は君一人の命で済むのだから。しかし、私はそんなことはしないよ。このペネロペーで戦う限り、私は君の命を保証するよ」
★「この事態を引き起こしたのは、僕の甘さなんだ。アナハイムからの機関にハサウェイ・ノアという名でハウンゼンを利用したのも、最後に閣僚たちの顔を見ておきたいというアイデアを諦められなかったからだ。それが今、みんなを危険に晒している。そうだねクェス。それが君の答えなら僕は変わるよ…変えてみせるよ。マフティー・ナビーユ・エリンに。よく一人で、クスィーG」
「断ち切ってみせるさ。妙な人間関係も、ギギ・アンダルシアも!」
★「身構えている時には死神は来ないものだ。ハサウェイ…」「…言われなくても!なまっている!ギギのせいか!」
「ガウマン!裏切りか?盾にされているのか?応答しろ!」「盾だと!違う、私はケネス司令とは違う!」「構いません!こんな新型やっちまってください!」「ペーネロペーのパイロット、レーン・エイム!人質をとらなければ戦えぬ情けない奴なのだな!」「私の名前を知っている?返す!大佐の命令でやっただけだ!」
「誘いか?それとも…!レーン・エイム、潔い男」
「これからが地獄だぞ」「そうらしいな」「待ってやったのは情けではない。ガンダムもどきめ」
★「人にはたえず義務というものがあるからな」「そう、義務でしょうね」「厄介なものだな。生きるというのは」「それほど生きることには執着していませんよ。私」
「ビームライフルがないな」「ダミーに使ったんだよ。ペーネロペーに狙撃させたんだ」「へー、どういう風に」「ビームライフルを発射して飛ばしただけだ。方向が変わってこっちがくらうところだった」「一撃離脱で済ませてくれなければ俺は死んでたよ。なあハサウェイ」
★「ハサウェイのお父様はまだ軍にいらっしゃるんでしょ?」「親と子が同じであるはずがない」「そうね…私、大佐が言うような運を持っているか試してみる。2-3日ここにいるよ」「そうするがいい。その方が面白いかもしれない」「…どうかしら」