テロメア

デアデビル ディレクターズ・カット版のテロメアのレビュー・感想・評価

5.0
マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)以前のヒーロー映画の傑作。ではあるが、公開版が好き勝手にいじられているため、全世界に広がったのはダメバージョンな不遇作。

とはいえ、私個人は当時のDVD(アルティメット・エディション)を購入し、何度も観た思い出の作品でもある。冒頭の超シリアス展開から、急に当時のハリウッド映画のよくあるラブコメみたいになる展開は、今からみたらぐだぐだ展開なのだろうが、当時はそんなマイナス点を無視してデアデビルが格好良かった。

十代の映画体験とは不思議なもので、翻訳されたアメコミを読むようになっても、やっぱりデアデビルはとりあえず買って読むとなるくらい、私の原点ヒーローだ。あの今からしたらひどい劇場公開版で、だ。時が経ってディレクターズ・カット版が観られるようになったお陰で今も大好きなヒーローである。

最近、指摘されて気がついたのだけど、私自身は聴覚過敏のようで小さな物音や、遠くの方でのエンジン音で帰宅に気づいたり、玄関の鍵を開ける前の足音で気づいたり、未だにモスキート音は聞こえる。そもそも小さな頃、目覚まし時計が鳴る直前のあの音に起こされるから、いくつも目覚まし時計を破壊して母に怒られた思い出もある。だから、マットが水を張った棺桶ベッドという究極の防音ベッドに入るのが、当時からかなり共感していた。今もあのベッドがほしいくらいだ。レーダーセンスはないが、家の防音に今まで(今もだが)苦労している。水に濡れるのはいやだが、防音ベッドはめちゃくちゃほしい。

そしてシリアスさは、後のダークナイトシリーズがシリアスで知られているが(DCだけど)、このディレクターズ・カット版はそれどころではない。バットマンでもビギンズはもっと楽しそうだったし。というより、改めてアメコミ読んだり、ヒーロー映画を観まくれるような現代から観たら、今作のデアデビルはかなりの活動期間を経たデアデビルのようで、冒頭から本来のデアデビルは不殺の化身なのだが(最近の翻訳『デアデビル:ノウ・フィアー』では、それにめちゃくちゃ悩んでいるくらいだ)、今作のデアデビルは悪人を死に追いやっても、裁きが下った、というスタンスだから、最近のドラマ版のデアデビルやアメコミのデアデビルを観て遡って観た人は首をかしげると思う。

しかし、これまた同じベン・アフレックのバットマン(『バットマンVSスーパーマン ジャスティスの誕生』。こちらもノーカット版のアルティメット・エディションが当然お勧め。同じ劇場公開不遇作)も、犯罪者に焼き印をするくらい過激になったバットマン(ヒーロー歴がめちゃ長い古参バットマン)だったので、今作のデアデビルもその系統だと思えば問題ない。そしてヒーローとしての原点回帰する「僕は悪人じゃない」という流れも、アメコミ映画としてよくできている。中堅ヒーローで戦いの中で死を望んでいる状態、死んで自らの信念から解放されたがっている状態からの、ヒーローとしての再出発。今のMCUにあったとしても異彩を放つほどのハードボイルドさ。要所要所の演出に二十年の歳月を感じるが、それでも今作がディレクターズ・カット版で劇場公開されていたら、今のヒーロー映画の流れはがらりと変わっていただろうと思うほどだ。どこの国でもあることだが、もったいない話だ。


それと、よく映画ではちょっと前はホワイトウォッシュが話題で、今では多様化ウォッシュがブームのようだが、今作を改めて見るまでなんとも思っていなかった(映画単体が面白ければどーでもいい些事だと思っていた)。のだが、私の中のキングピンは黒人のゴリゴリマッチョなのだよ、今作のせいでね。原作は白人のスモウレスラーみたいな感じだし、アメコミにも最近のスパイダーマン劇場アニメにも、ドラマ版デアデビルやMCUにもだが、全部白人のスモウレスラーだ。黒人のゴリゴリマッチョではない。

ここでようやく、ハリウッドがどうしてホワイトウォッシュが駄目だといい、近年の多様化ウォッシュがダメだと言っているのか体感できた。理解はできていたが体感として、なるほど駄目なわけだ、と感じたことがなかったのだが、今作で感じました。そう、オリジナルキャラクターがいる場合、特に実写化初で全世界公開が初だとすると、当然、オリジナルキャラクターのイメージは守らなければならない。なぜなら、違うイメージが定着してしまうからだ。ハリウッドはキャラクターを大切にしている文化がある。だからこそ、キャラクターのイメージを守ることが第一なのだ。そして全世界公開する場合は特に。そのことに体感として分かったのが、キングピンは黒人のゴリゴリマッチョではない、ということだった。未だに違和感を覚えるからねえ。理解してしても、十代の体験は拭えない。これはデアデビルが十代の体験として好きなのと同じレベルのことだ。それを感じるに、やはり、オリジナルキャラクターのイメージは守らなければならないし、イメージを変えるなら(人種性別もろもろ)、別のキャラクターにすべきだろうと思うに至りました。マルチバースのある世界ならどうあってもいいだろうが、当時のような単体映画なら、やはり問題ではあるよなと思う。


まあ、それはさておき。今作はCGや演出などは当時だなぁと思うが、それらを込みで単体ヒーロー映画としての出来は素晴らしいお勧め映画。個人的な十代の映画体験もあるが、アメコミから出てきたような四角い顔のケツ顎であるベン・アフレックがデアデビルをしているので、それだけで観る価値ありです。ベン・アフレックのバットマンも最高にアメコミのまんまイメージで素晴らしいですし。なんか、MCUにこのベン・アフレック版デアデビルが出るとか出ないとか噂が流れているが、本当だったら最高だ。デアデビル2を作ってほしい。オールドデアデビルで。もちろん、劇場公開はディレクターズ・カット版で。
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