トケグチアワユキ

熱のあとにのトケグチアワユキのレビュー・感想・評価

熱のあとに(2023年製作の映画)
4.7
タイトルどおり。

橋本愛主演の、愛の深度の尺度について、ちまちまぐちぐち偏執的に考える名作。
とてもDopeな名作だと思います。

宣伝などに使われているビジュアルが派手なので、そういう、いわゆるヴァイオレントな映画を期待して行く方もいるかもしれませんが、ぜんぜん違いますね。
それから、はっきりと因果のあるストーリーが好みの方にも、あんまり向かないと思います。
もっと観念的な映画です。
誰かを愛するということ、執着するということについてずっと考えながら観て、観おわった後も考え続ける、ただただそれだけのためにあるといってもいいと思います。
人それぞれ愛の尺度はバラバラで単位(目盛り)もまったく違う。
それを知るためだけの作品です。

ブカブカの指輪を渡した者と受け取った者の執着心の差異。
渡せるかどうかもわからないマフラーを編み続け、運命を律儀に全うしようとする人。

実に静謐な熱情を描いた作品。
ほぼ劇伴なしで進行するが、後半何曲か使われる劇伴が素晴らしい。
音楽は元森は生きているの岡田拓郎。
演奏に松丸契、千葉広樹。



〈鑑賞3日後追記〉
ともに生きることと、ともに死ぬことは同じ。
これは〈生〉を謳歌している真っ最中の方々にはなかなか実感できないかもしれない。
かと言って、たとえば不治の病にある方では、少し意味が違ってしまうような気もする。
傷害で6年喰らって諦念真っ盛り、とか、もうこんな田舎で子供はバアちゃんに預けちゃったし、夫は大事なところで動かねぇし、とか、なんかもうオトコ捕まえて家庭に収まるくらいしか先の見通しまったく効かねぇし、職場で黙ってマフラー編むくらいしかやることねぇし、とか、もうとにかくドン詰まりで何にもないってことだと思うの。
生き続けるめんどくささががっちり心を支配してくれてることが前提。
健太(仲野太賀)はそれがどこから来る諦念なのか見えないけど、身代わりお見合いだけでそれを感じさせちゃう仲野太賀のあばずれ感はうまいよね。
とにかくみんな信じられることなどひとつもないし、生きることにウンザリから始めないと何も見えないってことだなんだ。
とりあえず心療内科から始めましょうか。理解されるわけじゃないけどねっていう。

でさ、生きることと死ぬことがいっしょなら、生かすことも殺すこともいっしょなんだと思うわけ。
いいとか悪いとか、この際関係ないから。
ひと殺しならアンタもワタシも死に続けられるかも。
そう、生き続けると死に続けるがいっしょなのよ。
マフラーちまちま編むくらいなら、いっそいっしょに、ってことね。

ラストシーンも大好き。
迷惑?
私たちの愛を前にしてうるせぇよ。
ちょっと待ってろ。
愛がすべて。

はしもとあい
きりゅうまい
なるみ ゆい
なかの たいがっ!!