トケグチアワユキ

水深ゼロメートルからのトケグチアワユキのレビュー・感想・評価

水深ゼロメートルから(2024年製作の映画)
4.8
もうジジイだからさ、観おわった瞬間、さとうほなみが演じた教師(山本)以外、役名と俳優の名前も一致しないし、顔も判別できないし、それが補習組か水泳部なのか区別できない。

そういう、年に10本も映画を観ないジジイが認識したストーリーを要約すると、4.5人くらいの少しずつ差異のある(当然のこと)女子高生の、言葉にするのが微妙にグラデーションなモヤモヤと、ひとりの先生のイライラ、のストーリー。

私は〈こういう〉感情に、口先だけの安易な理解を示すヤツが大キライなので、「わかるよ」とか「たいへんだね」とか言う気はないけど、こういう作品をもっともっと観たいと思う。

言葉に落とし込めるんなら、わざわざ舞台で演じたり映像化しなくてもいいわけで、この何とも言いようがない迷いやモヤモヤが、映像にまったく解決を見せることなくゴロンと横たわっていることが重要だ。
好きも嫌いも、続けるもやめるも、勝てるはずなのに勝てなくなっちゃったのも、選ばれるのも無視されるのも、ぜんぶ解決しない。そのままだ。
性別のせいか? オンナだから? 
そんなハズない!! くそっ!!

教師の山本だってそうだ。
いちいち化粧は校則違反とか言って、自分からイライラしにいきたくないし、お盆に故郷に帰って友達と会うのも億劫なような、でも会いたい気分もある。
生徒のためって言うことで自分の気持ちをごまかして、問題はいろいろ先送りしちゃってるが、実は生徒たちのことをそこまで嫌ったり疎ましく思うばかりじゃないのも事実。
ホントに優しいっていうのは、むやみに馴れ馴れしく近づくことで、人間関係をグズグズにすることじゃなく、適正な距離を取って相手の意志を尊重できるようになること。

登場人物の中で迷いがないのはただひとり、私が冒頭にあげた4.5人の0.5に当たる、大量のスポーツドリンクを運ぶ野球部マネージャーだけ。
まあ、本人がそれでいいなら、つーか喜んでやってんなら、まわりがとやかく言うことでもないけどさ。
だけどこのスモールワールド、私にはありえないね。
大昔から思ってたけどさ、お前らみたいなヤツがこの世界を...(自粛)。

と、観ているこっちにモヤモヤが伝染して、はぁぁぁ、いろいろだな他人はとか思いながら、明るくなった劇場で帰る支度してたら、劇場内にいた中高年男性ばかりの客はとっとと消え失せ、なんか私ひとり、社会から取り残されたような気分。
そうだよな、こんなモヤモヤに気を取られてると、明日さえ覚束ない。
黙殺し現状追認が、中高年のいちばん正しい態度。

自分に正直になれ、中高生ども。
たとえ友だちだろうと先輩だろうと先生だろうと、合わせる必要などない。
ことばどおり「わがまま」に生きるんだ。


高校演劇の甲子園こと総文祭の2019年グランプリ作品の映画化。
脚本は当時上演台本をつくった中田夢花が手掛けた。

劇伴音楽はスカートの澤部渡。
ギターのワンコード、じゃらーんの余韻エコーに着地感が皆無で絶妙。
テーマ曲のフィーチャーリングシンガー、いらねっす。
年に映画は10本も観ないが、音楽のライヴは、2週3本なので、あえて言います。
誰だよ? こんなつまらん仕掛け作ったの。
そういうビジネスはジャマ。
特にそのシンガーは手垢。