テロメア

刑事ジョン・ブック/目撃者のテロメアのネタバレレビュー・内容・結末

4.7

このレビューはネタバレを含みます

イングリッシュ=イギリス人ではない。

上記の字幕のせいで、最初イギリスが舞台なのかと思ったくらいだ。アーミッシュのことを観賞後、軽く調べたところ『イングリッシュ(English)』はアーミッシュ的に言えば、アーミッシュ以外のアメリカ人を指すようだ。だから、ここの字幕は「イングリッシュ」でいいし、主人公が「なぜ、イギリス人?」とかの翻訳の差異があってほしかった。実際、ヤンキー=アメリカ人と言われていたときに、イングリッシュじゃなかったのか、同じようなもんさ、という流れがあったのだから、正確に翻訳してほしかった。

だから、ぜひとも字幕は新訳してソフト化してほしい。小説だと新訳をよくやっているし、吹き替えもいろいろバージョンがある。字幕もいくつもあってもいいし、やはり、翻訳した時代によって作品の背景への理解度が違うだろうから、ぜひとも新訳版の字幕も映画業界は出してほしい。


しかし、今作の一番惜しかったのは、やはり、主人公が激怒するところだろう。最初はアーミッシュに対してカルト教徒を見る目で見ていたところから、彼らと生活をともにしてその偏見がなくなった矢先に、過去の自分のような偏見の目で見る人への憤り。写真おばさんに対しての言葉での切り返しと笑顔はそれでいいが、その後の青年らの蛮行に対して非暴力主義のアーミッシュに触れていながら、ぐーぱんで対応はダメだろう。まあ、当然、この八十年代のアメリカはこれが正解だったろう。アメリカ人=イングリッシュならね。まあ、今みたいに検索すれば大体のことは調べられる時代だから言えるけれども、ここはもう一歩、八十年代でも差異がほしかった。

たとえば、あそこでは非暴力主義を理解していた主人公が、今までならぐーぱんで済ませていたところを(当時のハリウッド映画ならそうすべきだし、観客もそれを期待している)ぐっと堪えて「どこどこ署の警察官だ、普段からこのようなことを? 今は非番だから見逃すが、君たちの顔は覚えた。次に会うことがあれば、分かるな?」と、警察官としての正義を示す。それに退散する青年ら、今までと違い抑えたと自らの成長を噛みしめる主人公、しかし、戻ってくるとそれはイングリッシュ的だと言われる、とか。警察組織も最終的には武力(法を執行するための)で彼らは従っただけだ。礼を言うが、相手を押さえつければいずれ反動が返ってくる、とかでラストへの流れでもよかったのでは。警察官としての誇りと正義漢ゆえに嘘をつけずに名前を名乗っていたために、居場所がバレて〜という流れなら同じ流れだが、全然印象は変わると思うのだが。

だからこそ、決定的な差異を感じ、ラストの立ち去るシーンへと繋がると思う。自分の正義はどこまでも組織としての正義であり、武力に基づくものであると認識する。他の警官はカボチャだと言っていた主人公が初めて周りを見る。組織あっての正義、ゆえに組織を自浄しなければならない。という風に、自らの正義や警察官として、という哲学や自問のところまで踏み込んでいたらもっともっと良かった。

そもそも好みの映画だったからこそ、そう思うのだが、本当に惜しい。アーミッシュの爺さんも、銃ダメ音楽ダメあれもこれもダメ、というシーンだけ目立ち、アーミッシュとしてどうして非暴力主義なのか、それは予定説があるからうんぬん、というのを主人公(非アーミッシュ=イングリッシュ)に青年らの蛮行のあとに語りかけていたら、主人公の成長がもっと深まったろうと思う。観客がぶん殴れ、と思っているところを堪えて、それもなお、非暴力とはそうではない、という語りがあれば、より良かったろうと思う。それでもなお、最後のバトルシーン(当時のハリウッドお約束)をしつつ、当時のお約束を破るラスボスとの一騎打ちなしというシーンに繋がっていれば凄かったろう、と考えてしまう。

異文化に接した際に、その両者に共通する普遍性を描きつつ、その決定的な差異を見せてくれたら、アーミッシュがいない国の人々にも響きやすいと思うし、何より冒頭での横暴な警察官として黒人らへの無意識の扱いの劣悪さも、最後には改めるという流れになると思う。違いを理解したあとの主人公なら、もうあんなことはしないだろう、という安心感。それが上記の青年らへの対応への現れとなるはずが、劇中はそうならなかったので最後の最後に「イングリッシュに気をつけろ」とアーミッシュの一員と認められるシーンも、かなり突然感があったのは、青年らへの対応のまずさだと感じる。異文化交流というのは、異文化に染まることではなく、異文化に接して一回り成長すること。その普遍性が描けていたら、観客も主人公とともに成長できたろう、と思う。

好みだが今一歩な映画、しかし、八十年代だと考えるとかなり進んだ映画だったのだろうとは思う。なんか、文句ばかりになってしまいましたが、若きハリソンを見られたので、それだけで満足だったりもする。
テロメア

テロメア