テロメア

日本独立のテロメアのレビュー・感想・評価

日本独立(2020年製作の映画)
2.0
作り手の思想垂れ流しを昔のテレビの再現ドラマのクオリティで、という感じか。

まず、これはプロパガンダ映画ではない。なぜなら、プロパガンダ映画とは出来が良くなければ逆効果だからである。今作を見て、何か思想的共鳴するようなことがあろうか。そのような力が今作にはない。ゆえに、プロパガンダ映画ではなく、作り手の考えが反証されることなく垂れ流されているだけの、まあまあ、素人作家が最初の数年にやらかす黒歴史的なヤツですね。

物語を何かしら書けば分かることですが、一つの考えを肯定したいがために、反証の物語や反証する登場人物を魅力的に描けず、ただただ三流の当て馬悪役でしか存在しない物語は当然面白くない。もちろんですが、作者にはどんな思想があってもいい。しかし、物語として面白くするには、正反対の思想や主張も同じだけ、あるいは上回るくらい魅力的に描かなければならない。主人公を引き立てるなら魅力的な悪役を、という当たり前の創作論ですね。今作はそれが出来ていない。昨今のインディーズ映画(いや、今の邦画はインディーズの方がクオリティが高い事が多いから、アメリカのそこそこのサメ映画かな)よりも酷い出来だが、どこに日本側の俳優陣を揃える能力があったのか謎。まあ、それを生かせてないから意味ないですが。

題材としては面白いのに、こうも台無しにできるとは。まず、日本国憲法を巡る両国の攻防は、ドラマの筋書きとしては面白い。しかし、吉田茂と白洲次郎のどちらを主役に据えるかを決められていないうえ、さらに戦艦大和の話が入ってくる。大和の話は日本国憲法の攻防には関係ないので、これがまず物語をブレさせている。もう上記で述べたので重複するけれど、大和話を入れたのが検閲によりうんぬんと同じセリフが二連続で流れる辺り、それを言いたいがための話だったんだなあ、と見ていて呆れました。誰か校正なり編集なりできんだのか、と。この手の恥ずかしい素人演出は、白洲次郎が最後に涙目でこちらを見据えてカメラ越しに鑑賞者に訴えてくる、こっち見んな演出の二段構え。この二つがダントツで、きっつかったですねえ。お金がかかっていないのは見ればわかるにしろ、誰かもっとちゃんとした『映画』としてダメ出しできんだのかね。

もうね、冒頭からマッカーサーのど三流悪役の高笑い演出から、やべー映画を見始めてしまった、というのはわかっていたのだけれど、映画としてもど三流だったからどうもねえ。いっその事、これだけ未来を見てきたのか、というようなほぼメタ未来予知発言がバンバン飛び出す映画なら、もっと自虐ネタや風刺ネタのように楽しげに描けばいいのに、と思う。が、全体的にずんと真面目な感じが、おそらく重厚なドラマを描いているつもりなのだろうが、技量が追いついていないという状態なのだろう。予算がなくとも室内劇にして延々と日本国憲法の攻防を描けば面白かっただろうに、ともは思うがそれにはかなりの技量がいるのは明白。まず、脚本の段階でブラッシュアップが足りていないので、映画の予算うんぬんではないよなあ、と。今作に予算がついていないのは、脚本がこれじゃあ当然だろうと思う。今作がどうやったら面白い映画になれたのか考えているだけで疲れるレベル。

ずさんな日本国憲法を主題にしているからといって、ずさんな映画作りをしてもいいという理由にはならない。それとも、映画作りがGHQに乗っ取られて48時間以内で作らされたのかな、というメタ演出か、と思うくらいだ。日本国憲法での攻防戦は、ちゃんとした重厚なドラマ演出がされている映画で見たかったですね。他にないか探してみようと思います。このままでは消化不良で胃がムカムカしてしんどい。


余談ですが、改憲議論について個人的に。
戦後史を振り返れば、結局、この日本国憲法を上手に使いこなし、アメリカ様が決めたんだからアメリカ様の戦争には参加できませぬー、とか言いつつアメリカの戦争に巻き込まれることを押し付けられた憲法を守っているからこそできないという一休さんのトンチかな、と思うようなことをしつつ、思いやり予算だとかうんぬん込みで、当時世界一のアメリカ軍を端金で傭兵のように国を守らせていたわけだし、そうしている間に浮いたお金で経済大国になったり、それでもアメリカの戦争にはこの押し付けられた憲法があるのでー、と端金しかチップを出さなかったり、と結果論として結構うまいことやったんだなあ、というのが個人的な印象。正確な歴史なんて永遠にわからないけれど、それでも当時の密約とか証言とか文書とか、あれやこれやはちらほら何十年も経てば出てくるわけで。結構、日本はやり手の『弱腰外交』だったんじゃないかな、と思う。政治は結果が全てなので、結果論として戦後日本はアメリカの戦争に巻き込まれるのを最小限にできた。しかし、そろそろ押し付けられたからー戦法が通用しなくなってきた。だから、そろそろ真面目にちゃんとした日本の憲法を持とうか、ちゃんと独立国家になりましょうかね、脛かじりのプー太郎をやめるかー、というのが改憲派の本音だろうに、と思うのだが。なぜ、素直に言わないのか。「もうアメリカさんから吸える蜜がなくなりましたので、そろそろ自立しようと思いまするー」的なことを総理大臣が言えば面白いのに。作中で12歳の少年扱いしたがために、成人までに大変な扶養義務を負った残念な自称45歳アメリカのおっさんの話、が押し付け憲法の代償だと個人的に思っています。なので、日本国憲法成立の過程はどうでもよくて、使い道がないから使える憲法にするというのが改憲の本筋だろうと思うので、今作で何かたぎったとしてもそれがイコール今日の改憲論には結びつかんだろうと思うので、やはり今作はプロパガンダ映画ではないわな。
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