トケグチアワユキ

流浪の月のトケグチアワユキのレビュー・感想・評価

流浪の月(2022年製作の映画)
4.8
何か書こうと思うけど、ちょっと言葉が出てこない。
たとえば私がいま、更紗と文に感情移入し、流浪してもなお生き続けて欲しいと願うことすら、身勝手な干渉であると言わざるを得ない。
親でさえ不可侵な個は、自らの生を捨てることだって自由であるはずで、私は黙って更紗と文を見つめるしかない。

翻って、それは社会 (法)もまた、人を見たいように見るということに他ならない。
秩序の名のもとに醸成された型に当てはまらなければ容赦はない。
それは否定されるべきではない。
誰も無秩序の中で生きていくことはできない。

冒頭、言葉が出てこないといったのはそういうことだ。
このストーリーに言葉を差しはさむ余地はない。
傍観する以外に何もできない。いや、何もすべきではない。
手を差し伸べてすべてを引き受けることなど誰にもできないのだから。

いま、泣きながら書いている。
切ない。いたたまれない。
せめて祈ることだけは許してほしい。

これがフィクションであり、映画であるとか、どうでもいい。
世界中ありとあらゆるところで居場所を失い、または奪われ、さまよう人がいる。
いるんだということを忘れないようにする以外、私にできることはない。
つないだ手を引き離すようなことは絶対にしないと誓おう。