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悲愁物語のshabadabaのレビュー・感想・評価

悲愁物語(1977年製作の映画)
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梶原一騎原作らしくスポ根もので始まったかと思ったらスポ根パートは一瞬で終わり、メロドラマになるかと思いきや、更に転調し、ホラーへ。『殺しの烙印』と『ツィゴイネルワイゼン』の間に挟まれた本作はやや印象が薄いのは否めないが、異様とも言えるジャンルパスティーシュ的な感覚は流石としか言いようがない。

『東京流れ者』や『殺しの烙印』が古典ハリウッド映画の一ジャンル、フィルム・ノワールの意識的な解体であったのに対し、1960年代邦画のスポーツものの馬鹿馬鹿しさから出発し、古典ハリウッドのメロドラマを経由し、ジョゼフ・ロージーあるいはルイス・ブニュエルさながらのホラーへと至る本作は既にポストモダン的なサンプリングの発想を先取りしている。大島渚、吉田喜重、増村保造、今村昌平といった同時代の監督たちが政治的前衛に向かった時期に映画を撮ることを許されなかったことが鈴木清順にこのような映画を撮らしたのだろうか。

とりわけ観客を魅了するのは江波杏子の怪演だろう。分裂症的な彼女の演技は自分に興味を抱かない夫からの抑圧の顕れなのかもしれないが、同様に抑圧されている白木葉子演じる桜庭との関係がシスターフッドに転じずグロテスクなサドマゾへと生成する点はフェミニズム的な解釈の余地もある。
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