psychocandy

泥の河のpsychocandyのネタバレレビュー・内容・結末

泥の河(1981年製作の映画)
4.1

このレビューはネタバレを含みます

原作は、太宰治賞を受賞した宮本輝のデビュー作。

戦争の傷跡を残す大阪で、河のほとりに住む少年と郭船(くるわぶね)に暮らす姉弟との短い交友を描いた物語。戦後、いよいよ高度経済成長が始まろうとしている混沌とした時代。劇中で水上生活を送る姉弟の家族は、まさに激動の時代の波に取り残されようとしている人々の象徴でもあり、主人公である少年(信雄)の目を通して、そんな時代を懸命に生きようとしている市井の人々の暮らしを繊細なタッチで描いています。

信雄が喜一とその姉である銀子を、食堂を営む自宅に招いて、夕食をともにするシーン。信雄のお父さん、お母さんが包み込むような温かさで、この姉弟のことを自分の子供のように迎え入れる場面に胸が熱くなります。そして、この姉の銀子が、とにかく慎ましやかで健気でいい子。彼女が、信雄の家の米びつに手を入れていうセリフ。

「お米がいっぱい詰まっている米櫃に手ェ入れて温もっているときが、いちばんしあわせや。…うちのお母ちゃん、そない言うてたわ。(小説から引用)」

どちらかといえば地味な作風の映画ではありますが、現代人がすっかり忘れてしまった大切なもの(どこか、先日観た「パーフェクト・デイズ」で感じたものにも通じる)を思い出させてくれるような、そんな珠玉の名作です。

久しぶりに、以前読んだ宮本輝の他の小説も読み返したくなりました。
psychocandy

psychocandy