萩原くわがた

オッペンハイマーの萩原くわがたのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
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わくわくで視聴。
原子爆弾の開発者の伝記映画をクリストファーノーランが作るということで、これを知った時最初はちょっと驚いてた。ノーランの映画で思い当たる代表的なやつが大体非日常的エンタメ作品だったから。なぜ伝記映画をノーランが?
でも実際見てみるとこれがまた、ノーランしか撮れない映像に仕上がってて…面白かった!

本作品の映像で語られる光と影。
オッペンハイマーが原爆の製造を成功させ賞賛をあびた栄光。
しかしその威力で多くの人の命を奪うことに恐怖し、水爆の製造に反対し、スパイ容疑をかけられてしまった暗黒。
これを回想の形でさまざまな年代を交差させて描く。

結果が先にあり、なぜこのような事態に陥ったのかが少しずつ映像で克明に解き明かされていくこととなる。やっぱりこのスタイルがとってもノーラン・パワーが発揮されていてすごい面白い。史実映画でもお構いなしに見ててハラハラする。
本当、時系列をこんなにも刻みまくってるのに割と見てて解りやすいし純粋に面白いのはノーラン監督の手腕を感じる。アイコニックで個性的な役者たちが演じるたくさんの科学者たちは、いくら人数が多くても自然に把握できるし、今どんな事態になっているかも常に分かりやすい。
複雑な物語だけど、それを簡素化するというよりも複雑なまま飲み込みやすくしてお届けしてくれててこれがすごく上手。

また記憶を辿る話ということで罪悪感のイメージやリフレインする冷たい軍靴の足音はオッペンハイマーが感じた感覚をそのままこちらに伝える。胃が冷えるようなシーンが度々影を落とす。
原爆を作った男の伝記ということで、研究が成功したり実験が成功したりのシーンで科学者たちが喜ぶ中も我々視聴者はなんとも言えない感覚に陥り常に闇の到来を感じる。これもまたしっかりと作品内で尊重されていて、本作の意義みたいなものがバシバシに感じられた。

後半からラストまでの心の中にある様々な懸念や後ろめたさのピースがスッと合う瞬間のなんとも言えない戦慄的感覚はまさにノーラン映画の醍醐味。
キリアンマーフィーの濁りある感情表現の素晴らしさも相まって激しく没入できて、3時間ずっと楽しめた。