夏藤涼太

機動戦士Vガンダムの夏藤涼太のレビュー・感想・評価

機動戦士Vガンダム(1993年製作のアニメ)
4.4
#1話
ZZガンダムを全話見終わって、次はVガンダムが見たいなーと思っていたらちょうどガンダムチャンネルで配信が始まった。ラッキー。何話まで配信されるのかはわからないけど…

大人の事情で4話が1話にすげ替えられており、話は意味不明なので、初見の人はwikiであらすじを読んでから見ることをオススメします

ところで、「最初は子供向けで始まったけどシリアス化した」といえば、(テレビシリーズとしては)前作のガンダムZZと一見同じに見えるんだけど、ZZが子供向けに企画されながら、コミカルさが不評なのでだんだんシリアスになっていたのとは違って、Vガンダムは、企画こそはむしろ「大人向け」だったんだよな。
実際、納品済みの1話では、後の残酷描写を先取りするような、虐殺された丸焦げの死体の山とか出てくるし…その死体を見たカテジナのセリフはあまりにも不穏で、とてもヒロインとは思えない

大人向けで制作をしていたところ、放送直前に子供向けへの方向転換を強いられ、放送順が変えられ、中盤までは子供も楽しめるように(制作中のものも含めて)修正していったのだろう

そんなわけで、元々大人向けの企画だったVガンダムが、(シリアス化しても子供向けであり続けたZZガンダムと違って)大人向けのシリアスアニメになったのは必然だったのかもしれない
いや、富野の鬱もだいぶ影響を与えたのだろうけれど……

しかし、声変わりしたんか!?ってなるくらい若いな、阪口大助

#11話
1クール目終盤だが、Vガンダムを象徴する1話だと思う。
前話でシュラク隊なる、いかにもアニメらしい美少女部隊が出てきたが、まさかのここからしばらく、毎話味方が死んでいくという…
子供向けの枠としてはロックすぎるというのはもちろんのこと、今の週間テレビアニメ・ドラマの中でも異例中の異例作品だろう。

そもそも本作は(1st世代がガンダム離れをしてる中、唯一SDガンダムだけが人気だったことから)「子供向け」という制約で、ガンダム史上最年少の13歳を主人公に据えているわけで…それでなんでこんなことになったのか?と話題になっただろうVガンダムだが
Vガンダムが「こんなことになった」のはまさに、「子供向け(最年少主人公)」という制約を与えられたからだろう。

第6話の衝撃展開――敵キャラであるはずのワタリー・ギラが
「こ、子供が戦争をするもんじゃない…。こんな事をしていると、皆おかしくなってしまうぞ…。そうなる前に、モビルスーツを降りたほうがいい…」
と言って泣きながら主人公の眼前で自殺する――は、まさに富野由悠季の本音であり、上層部やスポンサーへの怒りに他ならないのだろう。

Vガンダムでは"見方の大人達"は皆揃って、子供であるウッソを(その操縦スキルを買って)戦わせようとする。敵の大人達が皆、「子供を戦わせようとするリガ・ミリティア(連邦軍)にドン引きしている」のとはまさに正反対であるが、この鬼畜な"味方の大人"というのは、富野由悠季にとっての"味方の大人"であろう。

「13歳の子供を主人公にして戦争させろって?バカじゃないのか?だったら見せてやるよ。子供に戦争をさせると、どういうことになるのか……」という富野由悠季の怒りが聞こえてくるようである。

ユーゴスラビア紛争に傷つく東欧を事前に取材していたというのだから、なおさら「子供の戦争」なんて許せなかったはずだ。
そりゃあ、「V=ヴィクトリー」なんて皮肉たっぷりのキレッキレなタイトルも付けるわな。

子供だけでなく、シュラク隊からも明らかに反発心が見えて。
なぜならシュラク隊の登場は、「セーラームーンみたいな美少女戦士を出せ」というスポンサーの要請に従ったからで……
その要請を聞いたときも、富野由悠季は思ったはずだ。「女性だけの集団が戦争に参加しなくてはならないなんて狂ってる」と。
(ある意味では女性差別的な思想かもしれないが、まぁ時代的には真っ当な発想だろう)

それどころか、ガンダムを見て「戦争」ではなく「戦記――エンタメ的な戦争の消費――」に興奮するオタクすらにも、怒りをぶつけているように見える。
それが感じられるのが、シャクティと1歳のカルルである。もうね、なんかある度にカルルが泣いてんのよ。これがまぁ、戦争のエンタメ的な消費のノイズなのである。

非富野ガンダムでは、たくさんの1stあるいは富野由悠季演出のオマージュ・パロディがされているが、富野ガンダムの見所は、赤ちゃん(あるいは文句や勝手なことばかりする老人や幼児などの戦争遂行の邪魔になる存在)がちゃんと存在感を持って描かれるところだろう。
確かに「戦争」をエンタメ・ゲーム的に楽しむ戦記作品や、戦意高揚作品には彼等のような存在は邪魔でしかないが、富野由悠季は、ちゃんと「(本物の)戦争」を描くことで、戦争の面白さを描きながら、同時にちゃんと反戦の心を忘れていない。

特にこの14話では、MS戦をやってる足下で花の種を植え始めるシャクティという、キレッキレのエグい演出が映える。
これは明らかに、「こ、子供が戦争をするもんじゃない…。こんな事をしていると、皆おかしくなってしまうぞ…」という6話のワタリー・ギラの発言が現実のものになり始めたことを描いているだろうが…

ここで素晴らしいのは、彼等がちゃんと(文字通り)「地に足の付いた」存在であることで。

特にVガンダムは、今までのガンダムと違って「地球」が出発地点になっているので、よりそれが浮かび上がっている。
富野由悠季はロボットだけでなく、ちゃんと「土」を描くのだ。

しかし、Vガンダムは本当に劇伴がかっこいい。劇伴のクオリティなら、富野ガンダムではVガンが一番なのでは?

#15話
ついに宇宙に出て、久々に人の死なない…どころか戦闘もない地味な回。

だが、SFアニメとして見たらかなり見どころのある回では?
いや今でこそプラネテスとかゼロ・グラビティとか、船外活動でスペースデブリを(SF的科学考証に則って)取り除くとか、よく見るようになったけど……93年にこれを TVアニメで丁寧に描いているのは凄いと思う。
もちろん小説ではリアルなEVA(船外活動)なんていくらでも描かれているだろうけれど……映像化されたものでは、もしかしてVガンが初めてなのでは…?
ウラシマ効果によるSFドラマを世界最初に映像化した『トップをねらえ!』といい、この頃の日本はSF先進国だからな…

しかしガンダムチャンネルのVガン配信、例によって唐突に終わってしまったので、サブスク入り直したよ!
ガンチャン、もう1クール分しか無料配信はしないのかな…と思ったらZは引き続き配信してるし、ようわからんな。
夏藤涼太

夏藤涼太