おかだ

ハケンアニメ!のおかだのレビュー・感想・評価

ハケンアニメ!(2022年製作の映画)
3.8
吉岡里帆映画のフリをした柄本佑映画


「シンウルトラマン」に続きアツくて楽しい作品でした、「ハケンアニメ」。

主演の吉岡里帆をはじめ、監督と原作も個人的注目メンバーを揃えてくれた嬉しいラインナップで、公開を心待ちにしていた作品でございます。

監督の吉野耕平は、前作「水曜日が消えた」で中村倫也をポップに使い倒した期待の新鋭。

そして原作は「朝が来た」や「ツナグ」の辻村深月。
年末には「かがみの孤城」の映画化も控えた大天才小説家でございます。


あらすじは、吉岡里帆演じるアニメ制作会社に勤める瞳が自身初監督作となる「サウンドバック」の制作に奔走するというもので、いわゆるエンタメお仕事ムービーといったジャンル。
近年では、「騙し絵の牙」なんかがイメージとしては近しい。

そんな瞳が若い女性監督というレッテルに苦労しながら制作に励む姿や、同時間帯にぶつけられた他社の天才監督、王子による作中作「リデルライト」と激闘を繰り広げるという王道スポーツジャンル的な展開が主な見どころとなる。

そんな中で今作の最大の強みは、なんといっても劇中アニメ作品のクオリティであろう。
これは原作から引き継いだものなのだろうが、とにかく「サウンドバック」も「リデルライト」もやたらと面白そうに描かれている。
「バクマン」なんかもこの辺が上手かったけれど、この手の作品はこの劇中作品のクオリティが物語への没入度へそのまま直結するので、これはとても大きな強みだ。

だけでなく、さりげなく両監督のエピソードとリンクしていたり、あくまで作劇のピースとしても組み込んでしまう芸達者ぶり。

それから、冒頭の制作現場を映したギスギスとした長回しのカットや、ポスターを背負ったトウケイアニメとスタジオえっじの両プロデューサーの睨み合いショットも面白くて、非常に期待の持てる出だしだった。

あとは月並みだが、やはりラッシュ確認に向かうスタッフの行進シーンの反復、瞳の位置関係のアップデートによる成長譚描写は素直にアガった。


しかし一方で、映画的な表現としては未熟な点が目立つ。

まず何より、全体を通して作劇のテンポが悪い。
中盤以降の失速と、クライマックスでのギアの入り切らなさは何とも惜しい。
一つは会議シーンでの切迫具合の割には具体的なデッドラインを示すショットが欠落してしまった点が要因と考えられる。

また、キャラクターが数社分、多数登場するお仕事映画ならではのポイントを上手く捌ききれておらず、瞳以外のキャラクターの熱意の源泉がうまく伝わっていない点ももったいない。

せっかくなので瞳と王子の切磋琢磨感がもっとあっても良かったと思うし、同じ大手の制作会社という割にはトウケイアニメとスタジオえっじの職場描写に差がありすぎる。
尾野真千子がたびたび呼ばれる冗談みたいな円卓に囲まれた御前会議らしきケレンみと、トウケイアニメの中小企業っぽい会議室の対比で、なんとも池井戸潤的な下剋上感を演出しているが、趣旨と沿っていないのでは。

あとは、サウンドバックとリデルライトの反響を示す、色分けされたSNS投稿の描写は映画的でなく残念。
人々の服装や街の景観の中で色彩を拾って映せるとより良かったのではないかな。

そして何より、最後のタクシーでの安恋愛描写の蛇足っぷり。
よくないぞ。テレビドラマじゃないぞ。


と、いくつか欠点は挙げたものの、それも蹴散らすほどの熱量を劇中作品のクオリティで示しきった快作でした。
MVPはもちろん吉岡里帆。と言いたいところだが、2枚目と3枚目の中間を飄々と演じきる柄本佑。なんかカッコよく見えてしまったな。

ジェニーハイの主題歌や、アクセントになる高野マリカの声も良く、見どころ多い映画だったと思います。間違いなくおすすめです。
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