おかだ

女子高生に殺されたいのおかだのレビュー・感想・評価

女子高生に殺されたい(2022年製作の映画)
4.2
生への渇望おじさんの新境地


4月1日ということで今年も新年度がスタートしました。
フレッシュな後輩達を見るにつけて「フレッシュだなあ」と感じる気持ちが年々強まっていくのは、その分自らの鮮度が落ちているからでしょうか。
新入社員の時、今の自分の年次の先輩達ってすごく大きく見えたんですが、いざその年次になってみると全くそんなことはなかった。
おにぎり食べて変な映画見て22時には就寝しているし。

という訳で新年度1発目の鑑賞は「女子高生に殺されたい」。
信じられないタイトルですが、とても面白い映画でした。


今話題の職人映画監督、城定秀夫が手がける新作は、原作漫画「女子高生に殺されたい」の同名実写版。ちなみに原作未読での鑑賞。
というか城定秀夫、どんなペースで新作撮ってるんだ。

あらすじは、『女子高生に殺されたい』という異様な願望を秘めた田中圭演じる高校教師が、自らの悲願を成し遂げるべく奔走するもの。

それだけ聞くとただの変態映画でしかないのだが、テーマは割と普遍的だ。

その辺りはまた後述するとして、脚本の面白さやフレッシュなキャストの演技も素晴らしいのだが、やはり城定監督の映画的演出による娯楽性の高さが今回も光る。


全編通じて水や妖しい光を用いた不穏な映像作りが素晴らしい。
また、人物のショットにも物理的に奥行きがあるので、カットの中で多くの出来事を捌ききる手腕もお見事。

特に水については、胎盤や水槽など、死と生のモチーフとして多用されており、城定監督のとある哲学的主張や今作のイメージとも上手くマッチする。

また、今作では「キャサリン」というとある重要なキャラクターの正体をあえて中盤まで隠すことにより、ややミステリー的な要素を加えているのだが、それらを形作るサスペンス描写も上手い。
大島優子との終盤のとあるシーンも、コーヒーを使った古典的なサスペンス描写はしっかりと逃さない。あえて入れ替えを見せ直すくどさはもったいないが。

学校を舞台に教師の狂気を描くという点で、似た映画として「悪の教典」なんかがパッと浮かんだりするがあちらと比べても、少なくとも出来の良さでは圧倒的に勝っている気がするな。


あとは冒頭のザラついたビデオ映像に反射する田中圭のディゾルブや、そこから回想に突入する流れも見事だったと思う。

もちろんクライマックスもめちゃくちゃ面白い。
瑞々しく仰々しい高校生演劇の描写と対になる屋根裏での一幕では、ついに田中圭の悲願達成をいつしかハラハラしながら応援している始末。


なぜそうなるのかというと、今作における田中圭演じるキャラクターの本質が実は我々とあまり変わらないからだ。

「女子高生に殺されたい」というのはあまりにも常軌を逸した欲望だが、程度に差こそあれ誰しも同じように他人には言えない願望を持つもので。
これに対して異様なまでに忠実に、切実に向き合った結果が今作の田中圭なのだ。

一見ただのおふざけ変態映画にも見える今作だが、城定秀夫の見事なバランス感覚によってかなり見応えある大衆向け娯楽作品に仕上がった。
あえてあの迫真のクライマックスで「女子高生じゃなきゃダメなんだ!」と叫ばせるコメディ要素も、優れたバランス感覚の賜物。

ちなみに今作は城定監督にしては濡れ場は控えめだなぁと思い見ていたが、もはやあの首絞めシーンは濡れ場。
ネクタイ直しのシーンの田中圭の表情も。

僕は城定監督の作品、そこまで多く観ているわけではないけれど、「アルプススタンドの〜」や「愛なのに」、特に「性の劇薬」なんかで描かれてきた一貫したテーマはおそらく『生きる意味』について。
今作はその点で、「殺されたい」という願望を持つ主人公のその渇望こそが生への執着であるという奇妙な因果関係をストレートに示したポイントなんかも非常に興味深く思う。


という訳で、なんかよく分からんけどとても面白い映画なのでおススメです。
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