「虚構と現実」
物語は普段はソウルに暮らす主人公の女性小説家の旧知の後輩が営む本屋を訪れるところからはじまる。いきなり怒声(叱責のような怒声)から始まるのだが、ドラマが展開しそうで全くしないのが面白い。怒っていたものも怒られていたものもそれを聞いてしまったものも、そのことには触れないし(素知らぬふりをしているとも言えるかもしれない)、訳あって主人公は郊外の街を訪れるのだが、核心にまでは触れない。
そんな感じで、ドラマチックな会話運びはあまりされない。
かと思ったら、いきなり創作のことを初対面の俳優に話し出したり、絶対思いつきだろみたいな映画製作をもちかけたりと、劇的なことを描いたりする。
登場人物の会話の中でも、小説のあらすじをめぐってそのような話題がでる。物語には何か大きなことが起こらなければいけないと言う詩人とそういうものはわざとらしいという小説家。リアルとドラマのあわいを探しながら、ホンサンウは苛烈で過剰な劇的さではなく、日常を少し外れたところで生まれる何かを求めているのかもしれない。
映像の点でも、ホン・サンウのモノクロ映像と定点・ズームの多用が効果的に用いられている。長回し定点が生む非現実感が観客を裏切るポイントをつくりだしていて、面白い。