クロスケ

暗雲動く時/暗雲晴れてのクロスケのレビュー・感想・評価

暗雲動く時/暗雲晴れて(1919年製作の映画)
4.5
序盤からいきなり、擬人化された食べ物たちが主人公の胃の中を暴れ回るという、Eテレの子ども番組かと見紛うぶっとんだ演出が展開し、思わず唖然とさせられます。
それも束の間、視覚効果を駆使して『志村けんのだいじょうぶだぁ』のコントを彷彿とさせるスラップスティックなやり取りが畳み掛けるように映し出され、私の心は早くも鷲掴みにされるのです。
走行する列車の屋根の上を駆けるというアクロバットはハリウッドのアクション映画やアドベンチャー映画ではお馴染みですが、その元祖はひょっとすると本作なのでしょうか。

こうしてみると、映画は誕生した瞬間から既に充分すぎるほど映画であり、20世紀になったばかりの時期に製作されたからといって、21世紀の現在に公開されている映画より劣っていることなど断じて無いのです。
そして、如何なる題材を扱おうと、映画とは活劇であり、運動する被写体と移ろいゆく時間と空間が生々しくスクリーンの中に現出されてさえいれば、映画はみなアクションなのだということをまざまざと見せつけられました。

クライマックスでは、嵐とダムの決壊によって引き起こされる大洪水が大迫力で描かれ、ジェームズ・キャメロンの『タイタニック』に勝るとも劣らないスペクタクルが展開されます。
嵐が過ぎ去って、あたりは一面、湖のように水に覆われてしまいます。人々は水面からちょこんと顔を覗かせた家の屋根や木の枝に避難しているのですが、その光景が非現実的なファンタジックな画面を形作っています。

そして、ラストでは主人公ダニエルと彼が思いを寄せるルセットが教会の屋根の上で愛を誓い合うのですが、突き抜ける空を背景にした、あっけらかんとした幸福さには迂闊にも涙腺が緩みました。
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