第11作「忘れな草」の続編。本作はほぼほぼ「とらや」と柴又でリリーとの話が進んでいく結果、寅さんの奔放性はあまり前作のようには感じず、リリーと向き合うことによる寅さんの愛情、優しさを色濃く描くことになっている。
「メロン騒動」や「相合い傘シーン」といった名場面があるが、大ステージに上がるリリーを想像した一人芝居(「寅のアリア」というらしい)が白眉と私は思う。
このシーンに代表されるような優しい気持ちになれる本作と活発な「忘れな草」は私にとっては甲乙つけがたい出来。
シリーズ全作品を観ているわけではないし、観た14作品中10作品は35年以上前の鑑賞で、はなはだ不正確かもしれないが、リリーの回の寅さんは、特に真剣にマドンナの観点からの自分の身の在るべき姿を考えているように感じる。
リリーの「結婚してもいい」との意思を櫻伝てに聞いて「冗談なんだろ」という寅さんの表情に決してテレなんかはなく、その後櫻相手に吐露したように渡り鳥の二人は一緒になって上手くいくわけがないと本能的にわかっているからの発言だったのだろうし、私自身も、少なくとも本作の時点ではこの二人の結婚は上手くいくとは思えないので、寅さんは賢明な判断をしたものだと思う。
しかし、昭和の人間には安定の面白さだな。なんというか、鑑賞している間の土台の部分で安心感があるので、ストーリーにすっと入っていけて、それぞれの登場人物の心の中が良く理解できる。
ちなみに、これは完全に好みの問題だが、おいちゃん役はチャランポランな感じで寅さんとの掛け合いが面白かった森川信→松村達雄の方が断然好き。下條正巳は堅い感じで崩れないので追加の面白味がない。