映画おじいさん

黒の凶器の映画おじいさんのレビュー・感想・評価

黒の凶器(1964年製作の映画)
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女に騙され利用され会社をクビになった田宮二郎が産業スパイになって復讐の鬼になるという、早い話が逆恨みの物語ながら、相手がブラック企業ならば観客も田宮二郎の肩を持つというもの。第一、田宮二郎は男にとっても嫌味のない男前。産業スパイになってもいきなり宿敵・根上淳にダマされそうになったりと少々アタマが弱いところも愛らしい。

大映のプレスシートを読むまで、田宮二郎がマッサージをしてもらいながら女スパイをスカウトする場所がトルコ風呂だとは気づかなかった。この頃の映画では男が性風俗に行くのは当たり前としてカジュアルに描かれているからたまに驚く。その女スパイの尻軽っぷりとリアルな不細工さ加減が素晴らしい。

企業にとって個人は米粒のようなもんだと言わんばかりのスタジアム級な巨大社員食堂(?)でのショット、フィルムの傷かと思ってしまう田宮二郎のタバコの煙などなど、画が凝りに凝りまくっている。でも、ガラスの反射越しのショットは初めはスタイリッシュに思えても、鏡、テーブル、テレビ、壁時計と何度も出てきて鬱陶しさを感じた。

産業スパイになるきっかけを作ったビッチとリユニオンになるんだけど、そのビッチが実は純情という訳でもなくかといってトコトン性悪でもなく中途半端だなと思ったけど、そこが良いところなのかもと今のところは好意的に解釈しておきたい。

割と大々的に大阪が舞台と設定されていたけど、バーの女給以外はほとんど大阪弁を話さないことに違和感も。

何となく株で儲けるのはトンビが油揚げみたいに当時(高度成長期)から思われていたことも分かる。株が庶民にも身近になったのはこの頃が最初なのかな。1961年日活製作の小沢昭一主演『大出世物語』も庶民が株で大儲けの話だったけど。