ヒロシニコ山

インキーパーズのヒロシニコ山のレビュー・感想・評価

インキーパーズ(2011年製作の映画)
5.0
長閑な展開から、後半に怒涛の巻き返しが入る作劇は「スロー・バーナー」と称され、タイ・ウェストの作風がそれであることは諸作より疑いようもないのだけど、本作に至っては「あらゆる悲劇が起き尽くした場所」を舞台としているので、スロー・バーナーというよりも燃え尽くした焦土でメインの登場人物2人がダラダラと過ごしている感じ。映画自体が何かのエピローグのような、そんな諦観が凄まじい。タイ・ウェストは古典ホラーを現代的に再創造し続けている御仁なのだけど、幽霊屋敷ホラーは「現在進行形」の悲劇(例えばスラッシャー・ホラーのようなING型)ではなく、核となる悲劇が過去に発生しており、その影に後世の人々が恐怖を覚える…という言葉通りの「WAS」な感覚を映画に転写している部分に、ジャンルを俯瞰するスマートな目線を感じさせる。そう考えると動きの少ない作品に見えるが、常にジリジリと動き続け、物語が「何か」へ向かっていることを暗示するかのようなカメラワークが映画にアクティブさをもたらしており、その匙加減に舌を巻く。本作のトーンの延長上にテッド・ゲイガン監督『喰らう家』があるように思うし、両者に共通している人物…ラリー・フェッセンデンが仕掛人なのかもしれない。ちなみに本作の舞台はニューイングランドであり、ロバート・エガースが「現代ニューイングランド派」とも言うべきかの地ホラーの旗手であるのだが、本作も同様に土地柄の持つフォークロア的な要素を引きずっている箇所が散見される。この辺りを深掘りすると『インキーパーズ』を別角度よりさらに楽しめるのではないか。
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