おもちゃ箱みたいなかわいさと、繊細な人間ドラマに一発でやられた。
撮り方、構図、色使い、音楽、全部が抜群にセンスよくて、でもベタになりすぎず、観客を"心地よくさせない"絶妙な意表のつき方がたまらない。
コメディの中に、成長、悲哀、バックグラウンドまでしっかり描ききっていて、どこか滑稽で、それがまた愛おしい。恋愛ってこんなもんだよな…としみじみ。
撮影の裏話も興味深い。
ビル・マーレイが自腹でヘリ撮影代を用意したけど、危険すぎて結局撮られなかったとか、細部までこだわるウェス・アンダーソンの狂気じみた美学に脱帽。
マックスの帽子が後半でロシア帽に変わるのも、彼が理想から現実を知り、防御を覚える成長の象徴になっている。
色彩設計も、シーンごとにパステルとビビッドを巧みに使い分け、登場人物たちの背景や感情を無意識にグッと引き立てている。
左右対称の構図や、カメラ固定の手法は、小津安二郎にも影響を受けたと聞き、納得。
でもウェスは"自然"ではなく"人工的な箱庭"を目指していて、それがこの独特の世界観を生み出している。
映画の隅から隅まで、"作り手の愛"が詰まっている。
最後の大演壇とショットもサイコーの心から大好きな一本!