やまげん太

映画 中村勘三郎のやまげん太のレビュー・感想・評価

映画 中村勘三郎(2013年製作の映画)
4.0
このドキュメンタリーで勘三郎さんご自身も語っていたけれど、彼の芸のピークは60〜75歳ぐらいに訪れるんじゃないかな、と生前芝居を見ていて思ってた。
もちろん生きていたころの年齢でも、技術があって華があり、お客さんを楽しませようというサービス精神旺盛な最高の役者さんの一人だったのだけど。
60代に入り、その有り余る魂のエネルギーの熱量がいい具合に枯れてきたころ、勘三郎さんはさらなる高みに至ったのではないかな、と今でも思う。
いい意味で力の抜けた、枯れてきた勘三郎さんが見たかった。

この映画は、TVで放送されたドキュメンタリーを再構築したもの。
勘三郎さんの亡くなる前後のエピソードがメインだけど、死をフィーチャーしたというより、ドキュメンタリー制作にあたったスタッフが、「亡くなる前の勘三郎さん、こんな話してたな。こんなことがあったな」と思い返しているような構成で、好感が持てた。
芝居や踊りのシーンがあまり多くないのが残念ではあるけれど、芝居への熱意、お稽古中のやりとりなど見ごたえがあった。特にお稽古での言葉は、弟子や若手に何を伝えたいのか明確で、とても分かりやすい。

勘三郎さんと勘九郎さんの襲名口上は何度見ても泣かされる。
亡くなった源左衛門さんについて触れ、一緒に拍手をしてあげてください、という仁左衛門さんの言葉。頭を下げたままポタポタと涙をこぼす中村屋親子の姿は今も忘れられない。

そして、勘三郎さんが亡くなった翌日の勘九郎さんの口上。
言葉をつまらせる勘九郎さんの手に、頭を下げたままそっと触れる七之助さんの姿。

映画では「弟七之助並びに中村屋スピリットを受け継ぎし門弟」のあとがカットされていたのが残念。

「弟七之助並びに中村屋スピリットを受け継ぎし門弟、中村鶴松!中村小山三!…」

とお弟子さんの名前を次々挙げていくところに嗚咽がでるほど感動したので、カットはあまりにもったいなさすぎた。
あの日あの場で、お弟子さんの名前を挙げていくところに、勘九郎さんの人柄と、受け継いだ中村屋スピリットが溢れてた。
カットせずに映画に残してほしかったな。
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