ごっこあそび

はじまりのうたのごっこあそびのネタバレレビュー・内容・結末

はじまりのうた(2013年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

久しぶりに観返して、やっぱりグレタの歌が心に残った。
彼女の歌は、誰かに向かって語りかけるように、言葉とメロディを紡いでいる。
感情にまっすぐで、飾らなくて、でも芯がある。「自由」という言葉が、あんなに似合う人はいないと思う。

ダンもデイヴも、音楽のプロフェッショナルとして、歌を商業の一部として見ている。
それが悪いわけじゃない。けれど、グレタは違う。彼女にとって歌は、気持ちの延長線にあるような、コミュニケーションの一部だった。
だから、きっとグレタは、デイヴの心が自分から離れていくのに気づけたのだと思う。

終盤、グレタがクリスマスに贈った歌「Lost Stars」をめぐって、2人が言い合う場面がある。
デイヴは「歌は共有するもの。みんなに聴いてもらえるなんて素晴らしいこと」と言う。
けれどグレタは、「これは、あなたのためだけに書いた。わたしたちの歌だ」と返す。

初めて観たときは、グレタにしか共感できなかった。
彼女の気持ちが痛いほどわかって、だから、ダンがあの曲を華やかにアレンジしたことにも、なんて酷いんだと思っていた。
でも、改めて観ると、ダンも絶対的に間違いではないと感じた。

純粋に、素敵な曲が多くの人に届くことは素晴らしい。歌は人の耳に届いて記憶してもらって初めて光り輝く。
だけど、光輝かせることに躍起になって歌本来の素晴らしさが見えなくなってしまっては意味があるのだろうか。
2人だけの思い出が見えなくなってしまってもいいのだろうか。
心の奥で、そんな問いがふと浮かんだ。

ラストシーン。
デイヴが-グレタが最初に歌ったような-シンプルなスタイルで歌う。
それを見て、彼女は一瞬うれしそうに微笑んでいた。けれど、涙を流しながら、その場を後にする。

もう、あの歌も、あの頃のデイヴも、何億光年も先に行ってしまったと悟ったからなのかと感じ、
2人が大切にしていた「歌」の意味が、まったく違っていたことに気づいてしまったからだと思った。
なんとも切ないラストシーンだが、1人自転車を漕ぐグレタの清々しい表情が胸に焼き付いて離れない。
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