COZY922

涙するまで、生きるのCOZY922のレビュー・感想・評価

涙するまで、生きる(2014年製作の映画)
3.7
原作はカミュの短編小説。1954年フランスからの独立運動のさなかのアルジェリアが舞台。

ヴィゴ目当てにチョイスした作品で観るまでカミュ原作ということも知らず、漠然と、凄惨な紛争下でのサバイバルの話だと思っていたけど違った。紛争やサバイバルはあくまでも舞台に過ぎず、フランス人としてフランス領アルジェリアに生まれ育った元軍人の教師の生き様を描いたものだった。

当時はフランス領だったとはいえ、アルジェリアはまぎれもなく異国。しかも親はスペイン人。主人公は民族的にはスペイン人で国籍はフランスで生まれ育ちはアルジェリアということか。。生い立ちはカミュ本人とかなりかぶる。フランス人からはアラブ人とみなされアルジェリア人からはフランス人と呼ばれながら、危険で過酷な環境下で生きてきた男の、無骨だけど実直で堅忍不抜な生き様がジワリと胸に沁みた。

考えさせられたのは、”帰属意識”というもの。民族、国籍、地域社会、企業・・・。人はしばしば個人的な繋がりや友情よりも帰属意識から来る感情や帰属する集団の利益を優先することがある。進んで優先するわけじゃなくても優先せざるを得ない時がある。友がいてその友情が確固たるものであっても。。その最たるものが戦争や紛争で、最後の主人公の選択は自分の微妙な立場を否応がなしに自覚してのことなのだろう。

地味だけど深い映画だった。ヴィゴ・モーテンセンの、心情が滲み出るような演技も良かった。目の表情と円熟味を増した役作り。年齢を重ねていい感じに渋みが増しているように思う。

殺伐とした荒涼な砂漠の風景がまるで不条理のメタファーのように感じた映画でもあった。
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