森泉涼一

起終点駅 ターミナルの森泉涼一のレビュー・感想・評価

起終点駅 ターミナル(2015年製作の映画)
3.6
直木賞を受賞した桜木紫乃の短編小説が原作となっている本作は「終わりは新たな始まり」というテーマの基、過去に捉われ続け国選弁護士として片田舎で密かに暮らす男とそんな彼の元に突然と現れる一人の女性が人生再出発の起点を見出していく。
主役の佐藤浩市演じる鷲田は裁判官としてキャリアを積んでいたが元恋人との事件がきっかけで田舎に引きこもり弁護士として活動。そこに本田翼演じる椎名が現れ新たな事件の幕開けとなるがこの映画はサスペンスではないというのがすぐ窺える。事件の背景や人間関係というのは深く描かれず、そこがない代わりに「食べる、寝る、会話する」といった日常のルーティーンの描写が目立つ。
鷲田は中年の一人暮らしが作る範囲外の料理を次々と出し観客を魅了する。そして、椎名に朝早くから起こされるという事柄がありながらも鷲田の寝起きシーンは度々現れる。当然ながら部屋での鷲田と椎名の会話シーンも無駄に多く二人をそんなにもフィーチャーさせたいのかと勘違いするかもしれないが、これらは本作のコンセプトを忠実に取り入れ、当たり前を改めて見直すという意味が込められている。
ベテランの佐藤浩市とニューヒロイン本田翼の融合も実に興味深い。若手がベテランの演技を刺激的に感じるのは勿論のことだと思うが、逆にベテランが若手の技術、しかも今や気鋭の女優の演技を目の当たりにすれば原点に振り返るという意味でも考え直すところがあるのかもしれない。
この共演が起点と考える気持ちは本田翼のほうが強いことだろうとは思うが、これまで中高生向けのラブコメヒロインとして活躍する機会が多かった彼女は本作で一皮むけた印象だ。
森泉涼一

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