「切り返しするだろう?車が曲がりきれない時、何回も、小刻みに」(銀色夏生の詩集より抜粋)
人生のドン底に居たウェンディと、教習所の指導員であるダルワーンとの出会い。運命でも何でもない、どこにでもあるような小さな出会い。その小さな出会いによってほんの少しずつ、変わっていく二人の日常。短めでさっぱりとしていて、すんなりと胸に馴染むような。そんな映画。
いくら歳を取っても、わたしたちは強くなるわけじゃない。少しずつ少しずつ、強がる術を憶えるだけだ。傷付く痛みを知った分だけ踏み出す恐怖に足は竦むばかりだ。そんな時は少しだけ、ほんの少しだけ、方向を変えて動いてみる。それを何回も繰り返す。車が切り返しをするみたいに。そうやって生きていく。誰しも。
二人が出会ったことで、何か奇跡的なことが起きるわけじゃない。わたしたちの人生がドラマティックで無いのと同じだ。それでもたとえば湖に小石を落としたみたいに、小さな波紋はすみずみへと流れて、それはやがて遠い未来で、大きな変化を齎すのかもしれない。二人が本当に僅かながらでも、少しずつ少しずつ前に進む姿を見て、ちょっとだけ勇気をもらった。
本編通してとても心地好く、さっぱりと見やすい映画だったが、特にエンディングが良かった。二人は二人にとって最高の道を走り出したのだと、思う。