うめ

イザベラ・ロッセリーニのグリーン・ポルノのうめのレビュー・感想・評価

3.5
 ロベルト・ロッセリーニとイングリット・バーグマンの娘であるイザベラ・ロッセリーニのパフォーマンスを記録したドキュメンタリー。

 モデルや女優として活動してきた彼女が現在行なっているのは、「グリーン・ポルノ」という名の一人芝居。グリーン・ポルノとは、動物たちの生殖活動を、被り物などを身につけてイザベラ一人で演じるもの。元々動画サイトにアップしていた映像が話題となり、書籍になり、いよいよ世界の各都市で一人芝居として上演することに。そんな彼女の姿と、実際の一人芝居の様子を織り交ぜながら、「グリーン・ポルノ」とは何かを描き出す。

 イザベラは幼い頃から動物が好きだったらしく、大人になって大学に入学して動物の生態について学んだそうだ。そのため、彼女の動物の生殖活動や機能についての知識は豊富で、しかもわかりやすい。知っていた部分もあったけれど、彼女の解説を聞きながら「なるほど」と思う部分もたくさんあった。そうしたグリーン・ポルノを通して、彼女は何が言いたかったのか。それは彼女が何度も口にしているように、「生物の多様性」が重要なのだということ。

 グリーン・ポルノを観ているとわかるのが、私達人間が、(人間によって形成された)イメージに縛られ、そのイメージでものを語っているという状況である。今作のテーマである性も同様だ。例えば劇中で語られているように、人間の世界では男性は性に奔放で、女性は貞操を守るというイメージがしばしば見受けられ、そのイメージを動物にも当てはめてしまう部分がある。だが、実際には動物は、実に多様な性のあり方をしている。オスを利用するメス、環境に応じてメス同士セックスする種、性転換するオス、両性具有の種、等々…性の観点からだけでも、私達がいかにイメージで考えたり話したりしているかがわかる。人間も動物。動物の世界というより広い範囲で、物事を観てみることもたまには必要なのかもしれない。

 また人間の世界と動物の世界における性そのものの捉え方の相違も興味深かった。例えば動物が発情していたり性交渉している場面って滑稽に見える(滑稽なものとして採り上げられる)けれども、人間の性交渉の場面が滑稽に見えるってなかなかない。裏で隠れて行なうこと、場合によっては恥ずべきことともみなされる。子孫を残すための行為として、同じ行為をしているはずなのに受ける印象が異なるというのは、社会的環境や心理的状況などもっと広範囲で考察できる点として、とても興味深かった。

 で、「生物の多様性」の話に戻るのだが(笑)結局、イザベラは動物の生殖活動の紹介を通して、それぞれの優劣などを語ったりはしない。終盤のイザベラの言葉からもわかるように、多様性を認めることは個性を認めることとなる。それが動物と人間、人間と人間の間で可能であることを、彼女は伝えようとしているのではないだろうか。予算を抑えるために紙で作られた被り物やセットで一人芝居をする彼女の姿は、学芸会のようにも見えるが(笑)その親しみやすさの裏には、彼女の意志があるような気がした。

 気軽に見始めたら意外と面白かった作品。是非、機会があったらご鑑賞してみてください。
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