【トリからテロへ】
第16回東京フィルメックスにて。
ネパールの映画は初めて。かつてはインド映画の影響が強く、一時はマサラムービーばかりだったものが変わってきたようですね。
本作は、ネパール内戦を背景とした、少年たちの雌鶏をめぐる小冒険。いわば、差別と戦争に揺さぶられる『スタンド・バイ・ミー』。
ネパール農村部の賑々しさを、静謐な映像美で綴り風格さえ醸されています。まずそこで、映画をみたなあ、との満足感。濃厚だから91分って少し驚き。
この題材への手綱さばきに凄みは感じないけれど、誠実に撮っていると思う。恐らく固有の文化から来るもので、意味不明なところが少しあった。が、概ねは直感的にわかるつくりですね。
そして、ネパール内戦のことを齧ってから振り返ると、ナルホド感が増しました。特にマオイストについて知ると、主人公のお姉ちゃんがより切なく想えてくる。
不可触民である主人公の少年が、村長の息子と育むいびつな友情も痛いが、女性ゆえ、さらに何重もの差別に晒されるお姉ちゃんが、テロさえ厭わぬ選択をするところが本作、いちばんの深手です。
ここには現代、イスラム国のメンバーになることを選ぶムスリムの青年らと同質のものを感じる。個人の想いから世界のあり方へ視界をつないでくれるのは、映画ならではの体験です。
湖で血を洗う全裸の少年たち…というシンボルカットが、やっぱり静謐なのに凄まじい。美しき水面に、無垢な少年たちの手で、他人の血がみるみる広がってゆく。
小細工せず、映像の流れに物語の行方を任せるこのやり方、とっても染み入りましたよ。
<2015.12.24記>