ササキ

大地を受け継ぐのササキのレビュー・感想・評価

大地を受け継ぐ(2015年製作の映画)
4.3
被災者も非被災者もお互いが震災後をどのように過ごしてきたかをまだまだ知らない。当事者には震災後から闘ってきたという自負、不条理なものに耐えて乗り越えてきた経験があって、それを外の人達が単に「いつもと違う光景」として消費するのはもちろんよくないが、福島から距離がある人達が福島を知る機会はもっと必要で、また、内の人達が外の人達の声に耳を傾けることも必要である。私たちはもっと出会うべきだ。顔を会わせ対話すべきだ。震災を風化させない、忘却するな、というがまだまだ僕達は震災について知らないことが多すぎる。

効率よく伝達することが目的にされ、簡単に処理されてしまう情報が多い中で、樽川さんの言葉を通して原発や農業、大きく社会のことを考ることができるこの映画は有効だと感じる。この映画を観た人は、もはや樽川さんの表情や言葉、掌を合わせる身振りなど樽川さんという人の記憶を抜きにしては原発の問題を考えることはできなくなる。メディアで流れて来る表面的な情報の、その背後には一人一人の生々しい個人の生活があることに気づくのだ。そのことに気づけば、樽川さんを特権化することもなく、また違う問題と向き合ってきた人の言葉を聞く必要があると、もっと一人一人の人間と対話をする必要があると、広く様々な問題を見つめることができるはずだ。
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